福岡県レッドデータブック

文字サイズ
画像:文字サイズ小
画像:文字サイズ中
画像:文字サイズ大
検索

各分類群の概論

概要

福岡県の菌類分布については,アマチュアのきのこ愛好会での記録や愛好者の記録といったものに頼る必要がある。RDB2011においては情報収集による調査をもとに作成されていたが,今回は準絶滅危惧種と情報不足に加えて要検討種とされていた種を主に現地調査を行い,過去の記録と併せて情報を得て判断した。その結果,新たに絶滅危惧II類2種,準絶滅危惧7種(前回同1種,追加6種),情報不足15種(前回同1種,追加14種),前回の情報不足から除外1種,要検討種から除外5種とした。

選定基準

菌類の本体は菌糸体であるが,そのほとんどの場合は土壌中あるいは木材中にあり存在の判断は子実体(きのこ)の観察で行う。子実体の生育期間は,いわゆる軟質菌と呼ばれるものは半日~3日程度であり,痕跡を含めても1か月以内,と確認時期にはタイミングが重要である。しかも,発生には水分や温度に左右されるものが多く,気象に大きく左右されるという確認の困難性がある。

選定する際に最も高く考慮されるのは共生する植物(主に樹木)の推移や宿主木材の多少の推移であり,菌根共生する植物や宿主材の減少によって菌類も減少する。判断基準の例として本県のブナ林,マツ林の衰退に伴ってそれとの菌根共生あるいは宿主としている菌類も大きく減少することが考えられ,実際現地調査結果においてもそのように判断された。従来発生が確認されていた地域を中心に調査し,前回記載を考慮して選定した。

生息環境

菌類の生育は高度や植生などによって異なるが,本県で最も一般的な常緑広葉樹林では,普通6月~9月に多く観察される。ブナ林では秋季~初冬にかけて,海岸マツ林では5月~9月と冬季,と時期が異なる。希少な菌類は樹木相の変化により,やはりブナ林,マツ林で多くなっている。もともと希少なものには温・寒帯性のもの,亜熱帯性のものがある。きのこ類の中では食用として利用されるもの,樹木病害性のものが注目されて情報が多いが,これらは工場緑地や公共施設緑地,公園などで見られることが多い。

保全対策

今回の改訂で,前述のとおり絶滅危惧II類や準絶滅危惧などが増加しているが,主な原因はブナ林,マツ林の衰退とニホンジカの下層植生食害による地表乾燥による菌類の急激な減少であると考えられる。海岸クロマツ林は広葉樹に置き換わり地表面が下層植生,落葉等に被覆され,腐生性菌,菌根菌の発生が減少していると考えられる。また,英彦山,犬ヶ岳ではブナ林が衰退,または倒木や切株がニホンジカの植生食害によって露出し高温・乾燥にさらされ,菌類が生育阻害を受けていると考えられる。また,食用キノコ類や,観賞用きのこ類については乱獲のおそれもある。

かなり厳しい状況と考えられるが,海岸マツ林の再生,山岳におけるブナ林の再生が望まれる。

一方,宗像市城山に生息するウスキキヌガサタケや久留米市高良山のアカダマキヌガサタケは登山者や近隣住民の観賞の楽しみとなっており,注目されて保全されている例がある。

調査協力者名

岩間杏美

写真提供者名

岩間杏美,高松美千子

参考文献(引用文献)

  • 池田良幸,2005.北陸のきのこ図鑑.橋本確文堂.
  • 今関六也・本郷次雄,1987.原色日本新菌類図鑑 (I).保育社.
  • 今関六也・本郷次雄,1989.原色日本新菌類図鑑 (II).保育社.
  • 今関六也・大谷吉雄・本郷次雄,2011.増補改訂新版 日本のきのこ.山と渓谷社.
  • 熊本きのこ会,1992.熊本のきのこ.熊本日日新聞社.
  • 久留米の自然を守る会,2001~2024.久留米の自然 No.71~142.
  • 前川二太郎,2021.スタンダード版 新分類キノコ図鑑.北隆館.
  • 日本冬虫夏草の会,2014.冬虫夏草生態図鑑.誠文堂新光社.
  • 農林水産省,2010~2022.特用林産物生産統計調査 特用林産基礎資料.https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokuyo_rinsan/index.html

図表

Copyright © Fukuoka Prefecture All right reserved.