概要
福岡県産両生類の希少種選定にあたり,爬虫類・両生類分科会では全種を対象に県内の分布情報を収集し,記録地点の3次メッシュ数(環境庁,1997)に基づいて分布図を作成した。分布情報は分科会委員,調査協力者によって直接現地で得られた情報のほか,各種雑誌に掲載された論文・報文,市町村が作成した自然環境調査報告書,土木工事に関わる環境影響評価書,国土交通省の水辺の国勢調査等に含まれるデータも収録した。これにより,分布域に関しては数量的比較が可能となった。福岡県RDB2001作成の際にも同じ手法をとっており,今回の希少種選定には前回に得たデータも含めて評価を行った。なお,現地調査は成体,幼体,幼生,卵塊,鳴き声に基づいて行い,種の同定には高田・大谷(2011),内山ほか(2002),大谷(2009),蒲原・前田(1994),前田・松井(1999),松井・関(2008)を参考にした。
一方,個体数の増減を示す数値的データを得るのは困難であり,これは野外で観察できる個体数,産卵数の年次変動が大きく,年毎の気象条件に大きく影響されることに起因する。両生類が活動する時期は種ごとに異なるから,このような調査を広い範囲にわたって行うのは事実上不可能であり,今後は調査対象種と調査域を絞って継続的な調査を行う必要がある。今回は分科会委員の経験に基づく増減の印象,および生息場所の環境変化を勘案して増加,減少の傾向を判断した。
福岡県に分布する両生類は,有尾目(サンショウウオ目)5種,無尾目(カエル目)11種の合計16種である(福岡県両生類目録)。日本には有尾目26種(固有種25),無尾目41種(固有種29,外来種3)が分布しており,福岡県には日本産有尾目の19.2%,無尾目の26.8%が分布していることになるが,琉球列島の種を除外すればこれらの値はそれぞれ20.8%,52.4%となる。このうち,ウシガエルは北アメリカ原産で,「外来生物法」で特定外来生物に指定されている。種の分類と和名については日本爬虫両棲類学会(2013),学名はFrost(2013)に従った。今回,福岡県の両生類相にコガタブチサンショウウオが新たに加わった。この種は小山(1947)によってブチサンショウウオの亜種として記載されたものであるが,形態やミトコンドリアDNAの比較などからブチサンショウウオとは異なることが判明し,亜種ではなく,別の種であるとされた(Tominaga and Matsui, 2008)。
今回希少種として選定した両生類は絶滅危惧IA類1種,絶滅危惧IB類1種,絶滅危惧II類5種,準絶滅危惧4種の合計11種で,前回に比べ絶滅危惧II類が1種,準絶滅危惧が3種増加している(新旧対照表)。この数は福岡県産両生類の約70%に相当し,絶滅危惧種のみに限っても44%にあたる。実際には指定外のニホンアマガエルやウシガエルなども以前に比べて明らかに減少しているという情報が寄せられていて,後述のハビタットの変化を考えれば両生類全体が減少しつつあることは否めない。
今回カテゴリーを変更した種は,いずれも前回ランク外としていた種であるが,その指定理由は次の通りである。コガタブチサンショウウオは産地が極めて限定されており,生息環境も開発に伴って徐々に悪化しつつあることを考慮して,絶滅危惧II類に指定した。ブチサンショウウオは県内の山地に比較的広く分布するが,生息環境は前種と同様の状況にあること,および環境省第4次レッドリスト(2012)で準絶滅危惧に指定されていることを勘案して,準絶滅危惧とした。ツチガエルとカジカガエルは局地的に多くみられる場所があるが,県内全域でみると減少傾向にあり,衰退をもたらした水田域や渓流域の環境変化は今後も続くと予想されるため,準絶滅危惧に指定した。
もっとも絶滅の危険性の高い絶滅危惧IA類のオオサンショウウオは,福岡県で過去に15の捕獲例が知られているが,その多くは飼育個体が逃げ出したとみなされるもので,確実な産地は赤村の十津川(今川の支流)のみである(倉本,2002)。十津川での捕獲は4例あるが,1990年以後の捕獲例はない。2012年3月に分科会委員2名を含む4名で十津川の上流,通称"はじかみ渕"で幼生の生息を確認するための予備的調査を行ったが,採集することはできなかった。現地はほとんど人の立ち入る場所ではなく,生息しているとしても人目に触れる機会は極めて少ないと考えられる。今後の詳細な調査をまたねばならないが,現状では絶滅と判断することはできないとして絶滅危惧IA類に指定している。