概要
植物に関しては,福岡県RDB2001では維管束植物(種子植物とシダ植物)だけを対象としていたが,今回の見直しでは維管束植物のほか,環境省のレッドデータブックで対象としている蘚苔類,藻類,地衣類,菌類を選定の対象とした。
福岡県の維管束植物相については,中島一男「福岡県植物目録」(1952),福岡県高等学校生物研究会編「福岡県植物誌」(1975)および福岡植物研究会による「福岡県植物目録」第1巻(1988)・第2巻(1993)が出版されたが,それ以降福岡県の植物相の全容に関する新たな出版物は刊行されていない。福岡植物研究会による「福岡県植物目録」は標本に基づく詳細な分布状況が記録されており,シダ植物,裸子植物および被子植物の一部については希少性の評価も含め,福岡県内の各種の分布生育状況が判断できる。しかしながら,被子植物の多くの種については,そもそも福岡県にどの程度分布していたものかという情報が十分でない。この状況は10年前からほとんど変化していない。
福岡県RDB2001刊行後,熊谷信孝「貫・福智山地の自然と植物」(2002)・「英彦山・犬ヶ岳山地の自然と植物」(2010)が刊行され,この地域の植物の記録が充実した。また,ダム事業に関する環境アセスメントや市町村が実施した自然環境調査により,福岡県RDB2001掲載種の生育記録が各地から報告されている。しかし,現状では福岡県の網羅的な植物目録は作成できていない。このため,RDBの調査対象種は,福岡県RDB2001の掲載種と,上記の出版物の掲載種のうち環境省のレッドリスト掲載種,その他分科会委員が選定したものとした。
今回のRDB改訂にあたっては,特にこの10年間に大きな変化があったと考えられる「山地におけるシカをはじめとする動物の増加の影響」「ため池の管理状況の変化による水生植物への影響」をとらえることを中心に現地調査を実施した。また,文献資料等の調査により,各種の最近の変化傾向を把握し,カテゴリーの再評価を実施した。新たな情報が得られなかった種については,原則として福岡県RDB2001のカテゴリーを変更しなかった。
蘚苔類,藻類,地衣類,菌類については,福岡県RDB2001では取り扱っていなかったため,まず福岡県内の現状を把握する必要がある。しかし,維管束植物と比べても研究者が少なく,情報の蓄積も少なかった。蘚苔類,藻類,地衣類については前掲の福岡県高等学校生物研究会編「福岡県植物誌」(1975)に目録が掲載されている。また,地衣類では,柏谷ら「英彦山及びその周辺地域の地衣類」(1998)に大分県と福岡県にまたがる地域の地衣類リストが掲載されている。一方,菌類については,本郷次雄監修・熊本きのこ会「熊本のきのこ」(1992)に福岡県の情報が一部掲載されているが,それ以外は報文を2~3報確認しただけであった。これらの分類群については,環境省のレッドリスト掲載種のうち福岡県内に分布すると考えられるもののほか,福岡県内で特に重要と考えられる種を,それぞれの専門家の意見を踏まえて選定することとした。
調査体制は,維管束植物については,分科会委員の矢原,真鍋,福原,三島が,海草類・藻類については川口が担当した。いずれも分科会委員以外の専門家(大学院生を含む)の協力を得て調査を実施した。また,蘚苔類については,兵庫県立大学(人と自然の博物館)の秋山弘之氏と広島大学の山口富美夫氏に,地衣類については佐賀大学の宮脇博巳氏に,菌類については大分県農林水産研究指導センターの村上康明氏に調査および原稿執筆を依頼した。蘚苔類は,山口氏が古処山地と英彦山地の現地調査を実施し,その結果を踏まえてカテゴリー選定と原稿の執筆を行った。地衣類は国立科学博物館の大村嘉人氏の協力を得て,宮脇氏がカテゴリー選定と原稿の執筆を行った。菌類は,九州各地の菌類に詳しい方々への聞き取りを踏まえ,村上氏がカテゴリー選定と原稿の執筆を行った。
今回のRDB改訂で各カテゴリーに選定した種数の一覧表を表 植物-1に,維管束植物のRDB2001からのカテゴリー新旧対応表を表 植物-2に示した。