福岡県レッドデータブック

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各分類群の概論

保全対策

今回選定された維管束植物における絶滅危惧種(絶滅危惧IA類,絶滅危惧IB類,絶滅危惧II類)535種および準絶滅危惧種51種,合計586種の危機要因の合計数について表 植物等-4に示す。危機要因の合計数を多い順に挙げると,遷移進行(218種),産地局限(197種),園芸採取(139種),森林伐採(130種),管理放棄(103種),シカ増加(85種),自然災害(80種)であった。

遷移進行や管理放棄などの人間の手が加わらないことを主な危機要因とする種として,ハナカズラ,チョウセンヤマニガナ,オキナグサ,ヒキヨモギなどの草原性植物,トキソウ,モウセンゴケ,ナガエミクリ,コバノリュウキンカなどの湿生植物が挙げられる。遷移進行を抑制し,草原や湿地を維持するための保全・管理などについて検討が早急に必要である。

福岡県では産地局限を主な危機要因とする種が比較的多い。その理由として,福岡県は全国平均に比べて森林の割合が低く,耕作地や市街地の割合が高いこと,また森林のうち植林地(人工林)の割合が高いため,生育地が断片化するとともに,残存する生育地が1,2か所に過ぎない種が比較的多いことによる。

本県では,園芸採取が依然として危機要因の上位に挙げられ,特に園芸的価値の高いラン科植物などの盗掘被害が各地で生じている。今回の改訂のための調査においても,クマガイソウ,フガクスズムシソウ,クモイジガバチなどの盗掘が確認されており,種の存続に対する脅威となっている。最近の盗掘に際してはSNSや登山地図アプリの普及により分布情報の入手が容易になっていることが影響していると思われる。

森林伐採を主な危機要因とする種としては,タキミシダ,オドリコカグマ,クマイワヘゴ,オトコシダなどのシダ植物,ナギラン,ムヨウラン,ヒメフタバランなどの地上性のラン科植物などが挙げられる。これらのなかには,主としてスギ・ヒノキ植林内に生育する種も含まれており,今後,主伐が進むと予測される人工林における保全対策が早急に望まれる。

人間による開発行為は,希少植物に対する大きな脅威となっており,上述の森林伐採のほか,ため池改修(58種),湿地開発(43種),道路工事(36種)などが上位の危機要因となっている。福岡県では公共工事等を対象とした希少種分布情報提供システムが整備され,開発行為地に生息・生育する希少種情報を十分な情報管理のもと提供しているが,今後その活用対象を拡大するなど,より一層の拡充が望まれる。

シカによる採食圧の増大を絶滅リスクとする植物が最近ますます増加している。RDB2011ではシカ増加を危機要因として挙げた種は24種であり,今回は85種と大幅に増加した。シカ増加を主な危機要因としている種としては,ハナビゼリ,イワタケソウ,ソバナ,キバナチゴユリ,フクオウソウ,ユキザサなど英彦山地や古処山地に生育する林床植物が挙げられる。これらの山地では,シカの増加が林床植物に壊滅的な打撃を与えている。既に確認できなくなっている種については,最近まで生育していた生育地を囲むシカ防護柵を早急に設置し,埋土種子などからの再生を急ぐ必要がある。また,適切なシカの頭数維持などの生態系管理の視点からの対策も求められる。

自然災害を主な危機要因とする種としては,マツグミ,ミヤマカラマツ,イワガサ,マメヅタランなどの岩上に生育または樹上に着生する種が挙げられる。英彦山地では1991年の台風に起因する森林衰退が現在まで継続しているほか,最近の豪雨災害による表土剥落などの影響も生じており,今後も継続的なモニタリングが望まれる。

以上,危機要因の視点から保全対策について述べた。福岡県では2020年に「福岡県希少野生動植物種の保護に関する条例」が制定され,希少種保護に関する県や事業者,県民等の責務,指定希少野生動植物種の捕獲・採集規制などが定められた。この条例に基づき策定された「希少野生動植物種の保護のための基本方針」において,希少野生動植物種がRDB掲載種であることが明記された。また,「福岡県生物多様性戦略2022-2026」では「絶滅危惧種の保護・回復に計画的に取り組み,絶滅を回避します」が目標の一つとして掲げられ,今後,上述の条例や戦略に基づく様々な施策や県民活動の展開が期待される。

このような取り組みにおいては,希少種の保護のみに焦点を当てるのではなく,希少種の生育環境の保全が必要である。例えば,二次林や二次草原などの二次的自然は,かつては薪炭林や採草地として利用され,その結果として遷移進行が抑制されてきたが,現在はそのような利用が行われなくなった。このような状況の中で,遷移進行を抑制し,二次的自然に生育する希少種を保全していくためには,新たな保全・管理の担い手となる地域の人々やNPO,事業者など様々な人々による連携・協働が不可欠となる。このため,多様な人々が参画する地域づくりやエコツーリズムといった社会経済活動を踏まえた統合的なアプローチが今後ますます重要になるであろう。

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