福岡県レッドデータブック

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福岡県の自然(3)

(3)植物群落と重要なハビタット
植物群落は生産者として,多様な生物種の生存を直接または間接的に支えている。植物群落の多様な形態は,そこに依存して生息する生き物たちへハビタット(生育場所)を提供しているとともに,群落を構成する植物種もまた群落が形成する環境をハビタットとしている。
本県は暖温帯に位置し,平野部の年平均気温は約,年平均降水量は1700㎜前後である。四季の気温較差は大きく,8月平均気温は,1月平均気温はである。この気象条件を本県の山地上部に相当する標高1000に換算すると年平均気温,8月平均気温,1月平均気温-となる。年平均降水量は英彦山(標高1200)中腹で2600mmである。冬季には海を渡る季節風の影響で,県境山地では積雪日数も多い。
本県の植生帯を,植物の垂直分布を指標とする暖かさの指数で見ると,夏緑樹林帯と照葉樹林帯の境界(暖かさの指数:気候の項参照)は大分県境山地で標高800付近,佐賀県境や県中央部山地で750付近となる。また,照葉樹林帯では標高500付近(暖かさの指数)以上でアカガシ林,以下でシイ・カシ林となっている。アカガシ個体群の上限は寒さの指数-で見ると,標高950~1000付近となる。アカガシ群落の中心は標高600~800の範囲と考えられる。日本の照葉樹林帯を標徴するスダジイ群落は,暖かさの指数120℃の等温線(北西平野部・標高120~内陸部・180)を境に高地側がスダジイ-ヤブコウジ群落,低地側がスダジイ-ミミズバイ群落となっている。また,沿海部ではトベラ,マサキ,ムサシアブミ,ツワブキ,ヤツデなどの暖地沿海性の種を含み,内陸部のスダジイ群落と区別される。
本県の主な植物群落
ⅰ.森 林
夏緑樹林帯の主な自然植生はブナ群落である。大分県境の英彦山地上部に県内最大面積のブナ群落が展開するほか,釈迦岳山地の御前岳山頂付近にもブナ群落が残存し,佐賀県境の脊振山地では,稜線沿いにブナ群落が点在している。また,県中央部の三郡山地,古処山地などでも,山頂や主稜線沿いに小規模なブナ群落が点在する。県境山地のブナ林は林床にササ類を伴っており,英彦山地ではクマイザサ,脊振山地ではミヤコザサ,釈迦岳山地ではスズタケとなっている。これらは群落立地の降雪量や冬季の気温,風の影響など微妙な環境の違いを示唆している。英彦山や犬ヶ岳の稜線部ではササ類の代わりにツクシシャクナゲが下層植生となっている部分もある。なお,県中央部の三郡山地や古処山地では林床にササ類を伴わず,ツルシキミ,ハイノキ,アオキなどのアカガシ林要素の種が多く出現する。このほかの自然植生としては,英彦山や犬ヶ岳の谷筋にシオジ,サワグルミ,イタヤカエデ,ヒコサンヒメシャラ,ミヤマクマワラビなどで構成されるシオジ林が生育する。
英彦山地,釈迦岳山地,脊振山地などでは,ブナ林の周辺や下部で,ミズナラ林やシデ林,アカガシ林などの二次植生が各所に見られる。また,三郡山地や脊振山地などでは,古くより薪炭林として定期時に伐採を受けながら再生利用され,雑木林の状態で維持されてきた林分が多い。二次植生のうち最大のものはシデ林で,アカシデとイヌシデを中心とし,コハウチワカエデ,リョウブ,クマシデ,カナクギノキ,シラキなどで構成され,福智山,犬ヶ岳,脊振山などで顕著である。また,脊振山地では主稜線沿いに,森林の過度の利用のため成立したと思われる,広大な面積のミヤコザサ草原が展開する。ブナ林は,かつては県内の夏緑樹林帯のかなりの部分を占めていたが,1970年代以降釈迦岳山地などを中心にかなりの部分が伐採され,英彦山上部でも国定公園特別保護区,第2種・第3種特別地域以外の林分で面積を縮小した。
ブナ林,シオジ林,ミズナラ林,シデ林などの林内には,希少種を含む夏緑樹林帯特有の多様な生物種が生育しており,それらは良好な森林環境が保たれてはじめて生存が可能となるものであるが,1991年の台風17号,19号などの大型台風の襲来により,英彦山を始め各地で山崩れ,倒木,枯死が相次ぎ,危機的状況に陥っている林分が少なくない。
照葉樹林帯の植生は山地上部から下部へとアカガシ林帯,シイ・カシ林帯,シイ・タブ林帯と大まかに分かれる。代表的な自然植生としてはモミ林,アカガシ林,スダジイ林,タブ林,海岸低木林などがある。モミ林は英彦山南岳のブナ林直下や宝満山系仏頂山の山頂付近にあり,下層はアカガシ林要素が強い。英彦山ではツガを交えている。アカガシ林は県内各地の照葉樹林帯上部に生育しているが,極相林は少なく,成長途上の若い林分が多い。下層にハイノキ,ツルシキミ,キジノオシダなどを伴い,上部ではブナ,下部ではタブノキやスダジイを混じえる。スダジイ林は沿海地や低地ではミミズバイを,内陸部や高地ではヤブコウジを伴うことが多い。また,内陸低地ではコジイ林が多くなる。
タブノキ林は離島や沿岸部に多く,沖ノ島や白山神社(北九州市若松区)などで典型的な林分が認められる。ムサシアブミ,ノシラン,ハマビワを伴いスダジイはほとんど含まれない。沖ノ島は典型的なタブノキ極相林である。なお,筑前大島,志賀島など,やや大きな島ではスダジイ林は南~南東斜面で生育し,北~北西斜面はタブ林やタブ-ヤブニッケイ林となっている。
特筆すべきものとして,平尾台や香春岳に代表される石灰岩地の森林植生がある。イワシデ林,アラカシ林,ヤブニッケイ林などで,石灰岩地特有の土壌,地形により形成された特殊な群落である。イワシデ林は断崖の上部に,アラカシ林は比較的傾斜の緩やかな地形部分に,ヤブニッケイ林はドリーネの内壁などに形成される。イワシデ林内には石灰岩地特有の希少な植物が数多く生育している。なお,香春岳一ノ岳の林分は石灰岩採掘により消滅した。
アカマツ林は福智山西麓の上野峡一帯,岩石山,油山などの,おもに花崗岩質土壌の山で残存している。下層はコナラ,リョウブ,ネジキ,ヤマザクラ,ヤマハゼなどの落葉樹や,アラカシ,シャシャンボ,ネズミモチ,ヤブニッケイ,コジイなどの常緑樹で構成されている。アカマツ林は,薪炭林や用材林として,かつては県内各地の山麓,丘陵部で普通に見られ,植林された林分も多かった。アカマツの用途がなくなり,手入れもされなくなった現在,衰退してほとんど姿を消している。
クロマツ林は,砂浜海岸の後背砂丘に防風林として植林され,優れた景観を形成している。筑前海岸には三里松原,さつき松原,福間~奈多~海の中道海岸,大原松原,幣の松原と断続的に続く大規模なクロマツ林が形成されている。しかし,近年林床の手入れがなされない林分が目立ち,これらの林分では土壌の富栄養化とともに樹勢が衰え,マツクイムシの被害が進行している。部分的にはクロマツの植樹など回復がはかられているものの,各所で松林の衰退が見られる。豊前海岸のクロマツ林は,海岸の埋立やマツクイムシの被害などでほとんど姿を消した。
本県の照葉樹林帯代償植生は,照葉樹二次林であるシイ・カシ萌芽林,かつてアカマツ林であった林分からアカマツが枯死して抜けた常緑・落葉混交二次林,コナラ,ノグルミなどの落葉樹主体の林などである。これらの林分は古くより薪炭林や各種用材林として育てられ,利用されてきた林であり,雑木林と呼ばれている。雑木林が生育していた山麓,丘陵地は,1970年代からの急激な都市化とともに,住宅地やゴルフ場,工業団地などの用地として開発され急速に消滅している。しかし,近年これらの林分は生物多様性保全の観点から,多くの種のハビタットとしてその重要性が指摘されており,保護の緊急性が高い群落の一つである。

 

・森林を重要なハビタットとする種群
 
甲虫類:
自然林内の枯木,朽ち木,倒木,菌類につく多数の甲虫類
定期的に伐採される雑木林の広葉樹…カミキリムシ類など
 
陸産貝類:
成長した大木を含む自然林
 
鱗翅類:
ブナ個体群…フジミドリシジミ ミズナラ
個体群…アイノミドリシジミ,エゾミドリシジミ シオジ
個体群…ウラキンシジミ
エノキ個体群…オオムラサキ
ヤマザクラ個体群…メスアカミドリシジミ
クヌギ個体群…ミヤマセセリ,アカシジミ,ミズイロオナガシジミ,オオミドリシジミ,コツバメ
ウラジロガシ,イチイガシ個体群…ルーミスシジミ
雑木林(クヌギ,コナラ)…クロシジミ,ミヤマセセリ,アカシジミ,ミズイロオナガシジミ,オオミドリシジミ
 
爬虫類:
英彦山地など山地の自然林…タカチホヘビ,ニホンマムシ
 
鳥 類:
山地森林…ミゾゴイ,クマタカ,ヤマドリ,コノハズク,アオバズク,ヨタカ,アカショウビン,ブッポウソウ,ヤイロチョウ,サンショウクイ,サンコウチョウなど

 

 

ⅱ.草 原
カルスト台地である平尾台には,野焼きによって維持,管理されてきた広大な石灰岩地特有のネザサ-ススキ草原がある。同種の草原は香春岳上部,田川市夏吉,田川市関の山にもあるが,平尾台を除いては,近年野焼きや採草が行われていないため,次第に樹木の侵入が進行しつつある。これらカルスト台地の草原は,石灰岩地以外の草原とは種組成上区別される。石灰岩地以外では,英彦山スキー場,福智山地稜線部の防火帯,竜王山頂,耳納山地発心山,三池山頂などでネザサ-ススキ草原が見られる。
また,ネザサ-ススキ群落を交えた放牧地,牧草地は,古処山地山麓部をはじめとして県内各地の山麓から丘陵部に,比較的小規模なものが点在している。更に,山間部の畦畔や水田に隣接する山地斜面,ため池堤防斜面などで,小規模ではあるが定期的な草刈りや野焼きなどの管理を受けているネザサ-ススキ草原が見られる。これらの草原は,キキョウ,オミナエシ,スズサイコ,オキナグサなどの植物も含め,絶滅危惧種としてレッドリストに登載されるような草原依存種のハビタットであり,保護の緊急性が高い群落としてあげられる。
夏緑樹林帯に属する脊振山地の主稜線部には,かなり広範囲に密生したミヤコザサ草原が見られる。これらの草原は古くより榛秣地(たきぎ山)や茅場として利用されてきたものと考えられるが,現在は各所でリョウブ,ネジキ,コシアブラなどの落葉二次林要素の幼樹が芽生え,幼木林から低木林への遷移が起こりつつある。
このほか特殊な環境に成立した草原群落としては玄界島,姫島のハマオモト群落など海岸岩礫地草本群落,海の中道のケカモノハシ-コウボウムギ群落など海岸砂丘草本群落,小呂島や沖ノ島のハチジョウススキ群落など海岸風衝草原群落などがある。

 

 

・森林を重要なハビタットとする種群
 
鱗翅類:
ミヤコザサ群落,スズタケ群落…ヒメキマダラヒカゲ
スミレ類(平尾台石灰岩地)…オオウラギンヒョウモンなど大型ヒョウモン類
ネザサ-ススキ群落…ギンイチモンジセセリ,キマダラモドキ,クロヒカゲモドキ
(クヌギ-コナラ群落と併せてよい生息地となる)
海浜植物群落(ミヤコグサ,コマツナギ)…シルビアシジミ
岩角地植物群落(イワレンゲ-日向神,ツメレンゲ-芥屋)…クロツバメシジミ
ススキ-ネザサ草原(ノアザミ,オカトラノオ,ヒヨドリバナなど)…大型ヒョウモン類の吸蜜源
 
甲虫類:
牧場…ダイコクコガネ

 

 

ⅲ.河川および河川敷
県内ほとんどの河川では,流れの速い上流域で各所にツルヨシ群落が見られ,流れが緩やかな中流域から下流ではヨシ群落が発達する。水のよどんだところではヒメガマやマコモなどが群落をつくり,水辺にはタデ類などが群落をつくる。一般にヨシは水中から水辺にかけて分布し,川土手近くではオギが群落をつくる。
比較的自然状態が保たれた河辺や河床をもつ,流れの緩やかな中小河川の中流域を見ると,エビモ,オオカナダモ,ホザキノフサモなどの沈水植物や,ヨシ,マコモ,キシュウスズメノヒエなどの抽水植物,ミゾソバ,ウナギツカミ,オオイヌタデなどタデ類,オランダガラシ,ジュズダマなどの河辺植物が随所に見られる。このような場所はフナ類,ヒナモロコ,カワバタモロコ,イトモロコ,メダカ,オヤニラミなどの一生を通した生息場所であり,産卵場所となって水辺の植物の茎や葉に付着卵が産みつけられる。また,カワムツやオイカワの幼稚魚,タナゴ類,ムギツク,モツゴなどの魚類,カワヒガイ,トンボ類やホタル類の幼生,ヌマエビ,スジエビ,テナガエビ,ザリガニ,モクズガニ,タニシ類,カワニナ,底土中のドブガイなどが生息している。これらの動物は水生植物群落中に生息するミジンコ類やトビムシ類などの水生昆虫をはじめとした小動物や付着藻類を摂餌し,一つの水系生態系を形成している。
矢部川,筑後川,遠賀川などの大河川では中流域で河川敷が発達する。場所によっては公園化されたり,駐車場やグラウンド,畑として利用されたりしているが,自然状態で放置された河川敷内はススキ,チガヤ,オギ,カナムグラ,カワラマツバ,ジャヤナギ,オオブタクサ,セイタカアワダチソウなどが生育する。また,岸辺付近はヨシ,オギ,ヒメガマなどの群落が形成される。このような場所ではシマヘビなどが生息し,また,カヤネズミ,ツバメチドリなどの営巣の場となっている。
なお,潮の干満の影響を受ける感潮点以下の流域については河口域および干潟の項に含める。

 

 

・河川および河川敷を重要なハビタットとする種群
 
淡水産魚類:
山間の渓流河畔林から落下する昆虫類を餌とする…ヤマメ,アマゴ,タカハヤ
 
淡水産動物群:
山地渓流…サワガニ
 
甲虫類:
緩やかな流水域~止水域…ゲンゴロウ,ミズスマシ,トンボなど
 
鱗翅類:
英彦山地など山地の自然林…タカチホヘビ,ニホンマムシ
 
両生類:
山地渓流…オオサンショウウオ
山地渓流および周辺の森林…ヤマアカガエル
低山地,丘陵の小河川および湿地…カスミサンショウウオ
 
爬虫類:
清流性河川…ニホンイシガメ
 
鳥 類:
河川敷の裸地…ツバメチドリ,イカルチドリ,コアジサシ
ヨシ群落…ヨシゴイ,チュウヒ,オオヨシキリ

 

 

ⅳ.湿地および池,堀
湿生植物群落は,山付きの水田や谷の出口,丘陵のくぼ地,ため池の流入口付近などで,過湿状態の土壌の上に,湿地を好むミズゴケ類やイグサ科,イネ科,ラン科などの植物が形成する群落である。かつては県内各地のため池の池尻などで,サワギキョウ,ミミカキグサ,サギソウ,ヒメカンガレイ,ツクシガヤなど国のレッドリストに登載されるような種を含む,湿生植物群落が発達していた。このような群落は久留米市湯納楚,黒木町,小石原村宿平,星野村池の山などを中心に県内各地で見られたが,現在は農業形態の変化や各種開発行為などでその大半は消失し,このような群落は小石原村や星野村,黒木町の一部で見られるのみとなった。また,平尾台東部の広谷湿原は北九州国定公園の特別保護地区として保護されていることから,湿原状態が維持されており,ノハナショウブ,ツリフネソウ,オオミズゴケなどが見られる。ここは近年,土砂の流入により乾燥化が進み高茎草本が侵入するなど,かなり環境が悪化している。
県内各地のため池や筑後地方のクリーク,福岡城の濠などでは抽水,浮葉,浮水,沈水植物群落が見られる。本県のため池は,状態がよいものでは沈水,浮葉植物群落が発達しており,ヒシ属,ヒルムシロ属,マツモ,ヒツジグサなどが見られるが,大都市周辺では管理が行き届かず,放棄されたものも多く,一般に群落環境が悪化している。県東部大平村のため池ではガガブタ,ジュンサイ,イヌタヌキモ,ヒルムシロ,ホソバミズヒキモ,ミズスギナなどが生育している。豊前地方の雑木林がある丘陵地のため池には,保存状態が良好なものが散見される。また,自然に成立した池について,古賀市千鳥ヶ池に例を取ると,ヒシ,メビシ,ヨシ,マコモ,イ,タマガヤツリ,ヒメクグ,サンカクイ,ツクシオオガヤツリ,コウキヤガラ,タヌキモなどの抽水,浮葉,浮水,沈水植物の生育が見られる。千鳥ヶ池は,縄文海進期には砂丘間の入江であったものが,その後の海退で取り残されて池となったもので,県内では珍しい自然成立の池である。水源は地下水と雨水の流入による。
筑後平野にはクリークが発達しているが,この中には止水域に発達する水生植物群落が見られる。 ウキクサ,アオウキクサ,トチカガミ,ヒシ,オグラコウホネなどの浮葉植物,マツモ,クロモ,エビモ,ホザキノフサモ,セキショウモ,ササバモ,イバラモ,オオカナダモなどの沈水植物が見られる。また,近年ホテイアオイが大群落をつくるようになり,他群落を圧迫したり枯死植物体が悪臭を放つなど,問題となっている。
特筆すべき群落としては次のようなものがある。ツクシオオガヤツリ群落は福岡城の濠が基準産地であり,現在は適切な管理のもとに群落として保護されている。セキショウモ群落は三橋町内の二ッ川流域に高密度で分布している。小倉南区にはガシャモク群落などが見られる池がある。この池の水源は平尾台竜ヶ鼻の石灰岩地からの流入水であり,特殊な環境下で沈水植物であるガシャモクとインバモのみが生育している。

 

 

・湿地および池,堀を重要なハビタットとする種群
 
淡水産魚類:
河川環境と同じ種が生息
 
甲虫類:
湿地・湿原…ネクイハムシ,トンボなど
 
鱗翅類:
ガマ群落…オオチャバネヨトウ
 
両生類:
ため池,山付きの水田など…トノサマガエル
 
鳥 類:
貯水池…トモエガモ,オシドリ

 

 

ⅴ.河口域および干潟
本県で,河口域にヨシ群落または塩沼地植物群落のいずれか,または両方の植生をもつ主な河川は10あまりである。豊前海に流入する河川では佐井川,城井川,長峡川,今川,祓川など,筑前海へ流入する河川では遠賀川,花鶴川,多々良川,瑞梅寺川,泉川など,有明海へ流入する河川では筑後川,矢部川などである。このほか曽根干潟に流入する竹馬川や貫川,和白干潟に流入する唐原川や香椎川などの小河川でもわずかながら見られる。これらの河川の河口域には,かつてはヨシ群落,マコモ群落,シオクグやシバナ,フクド,ハマサジ,ナガミノオニシバ,ウラギク,ハママツナ,シチメンソウなどで構成される塩沼地植物群落などが成立していた。しかし,河口域の埋立,下流域の護岸工事や,流路確保のための定期的な中州や岸辺の堆積土撤去などにより,群落は絶滅,または極めて不安定な状態になり,豊前海岸に多く見られたシチメンソウはほぼ絶滅している。
これらの河川の中では,筑後川河口域にかなりの面積のヨシ群落,マコモ群落が発達するほか,博多湾に流入する瑞梅寺川河口,唐原川河口などでヨシ群落や塩沼地植物群落が見られる。また,泉川河口付近にもヨシ群落が残されているほか,暖地性河辺植物群落である,九州最大のハマボウ群落が見られる。多々良川では,宇美川との合流地点付近にできる中州でヨシ群落が成長し,野鳥や稚魚などの重要なハビタットとなっているが,中州はたびたび撤去されている。
本県にある豊前海の曽根干潟,博多湾の和白干潟および瑞梅寺川河口干潟,有明海岸は全国的に有名な干潟で,我が国有数の渡り鳥飛来地である。曽根干潟を除く各干潟にはそれに続くヨシ群落や塩沼地植生などが見られ,鳥類をはじめとした多くの種群のハビタットとして重要である。津屋崎町汐入浜はかつての塩田跡にできた干潟であるが,汽水域の種群にとって重要なハビタットとなっている。

 

 

・河口域および干潟を重要なハビタットとする種群
 
淡水産魚類:
筑後川感潮点付近のヨシ群落…クルメサヨリの産卵場
 
淡水産貝類:
河口~内湾中潮帯…クロヘナタリ,ウミマイマイ,マゴコロガイ
 
淡水産動物群:
有明海泥質干潟…ハラグクレチゴガニ,アリアケガニ,ヒメモクズガニ
干潟…チゴガニ類,シオマネキ類,オサガニ類,アナジャコ類,スナモグリ類
干潟およびヨシ群落…アシハラガニ類,ハマガニ,ベンケイガニ類,アリアケガニ類,ピンノ類,テナガエビ類
 
甲虫類:
ハンミョウ,ハマベゾウなど
 
鳥 類:
干潟…カラシラサギ,クロツラヘラサギ,ツクシガモ,ヘラシギ,カラフトアオアシシギ,ダイシャクシギ,ホウロクシギ,ズグロカモメ
内湾の浅海域…カンムリカイツブリ

 

 

ⅵ.離 島
本県の主な離島は,人が定住する島としては大島,小呂島,姫島,玄界島,志賀島,能古島,相島,地島,藍島,馬島などがあり,無人島では沖ノ島および属島の小屋島,白島(男島・女島),柱島,大机島,小机島,烏帽子岩などがある。定住島は,かつては南西斜面を中心に山頂近くまで段々畑が広がるなど,かなり土地利用がなされていたが,近年は多くの島で中腹以上の農耕地は放棄され,二次林または植林として森林が回復している。北西側斜面は自然林となっているところが多い。
これらの島々には環境庁特定植物群落や県自然環境保全地域に指定された各種群落がある。中津宮のバクチノキを含むスダジイ林,御岳のスダジイ林,大島のハマヒサカキ林(以上大島),沖ノ島の自然林,小呂島のハチジョウススキ群落,志賀島のスダジイ林およびマテバシイ林,玄界島のハマオモトを含む海浜植物群落,タブ林,姫島のハマオモトを含む海浜植物群落およびマテバシイ林などである。北部沿岸の島嶼部ではマテバシイ林が断続的に生育している。マテバシイは,ほとんどが若い林分で純群落状の林相を呈し,林分の多くは著しく萌芽した個体で構成されている。
離島や沿海地の断崖,急斜面にはトベラ,マサキ,ハマビワ,ハマヒサカキなどからなる海岸風衝低木林が発達している。大島神崎鼻では大面積のハマヒサカキ低木林が純林状態をなしている。特に,沖ノ島はタブ原生林で一部にはオオタニワタリが着生するなど見事な林相をもっている。
これら離島の森林は,朝鮮半島経由の渡り鳥の重要な中継地であるとともに,オオミズナギドリなど海洋性鳥類の重要な営巣地にもなっている。

 

 

・離島を重要なハビタットとする種群
 
鳥 類:
沖ノ島,白島(男島),姫島,筑前大島,藍島などの照葉樹自然林…カラスバト 沖ノ島および小屋島,志賀島の沖津島,大机島などの海岸風衝低木林や風衝草原…ウチヤマセンニュウ
小屋島のヒゲスゲに覆われた岩隙…ヒメクロウミツバメ,カンムリウミスズメ 三池島…ベニアジサシ,コアジサシ

 

 

ⅶ.植林地,耕作地の植生
植林地,耕作地は県土の過半を占めている。植林地の大部分はスギ・ヒノキ植林である。特筆すべきものとしては,樹齢300~600年の大径木中心の小石原行者杉や若杉山のスギ群落,樹齢200~300年生の英彦山千本杉などがある。これらの群落はいずれも修験道との関わりで植林され,保存されてきた貴重な林分であるが,いずれも1991年の大型台風によりかなりの損壊を受けた。林業としての植林は江戸時代後期から本格化したと考えられているが,現在見られる林分は古いもので樹齢60~100年程度であり,多くは戦後の拡大造林時代から1970年代にかけて植林された若い林分である。
本県では北九州市小倉南区合馬をはじめとして,モウソウチク植林もかなりの面積を占めている。特筆すべきものとして久留米市のキンメイモウソウチク群落がある。このほかハビタットとして重要なものは,宝満山南麓の林分を始めとした大規模なクヌギ-コナラ植林,筑後川流域のブドウ,カキ,ナシ果樹園,各地の柑橘果樹園などがあげられる。
耕作地の植生としては,デンジソウ,ミズオオバコなどの希少種を含む中山間地水田雑草群落,休耕田雑草群落,ため池堤防斜面の雑草群落,畑地雑草群落など,集落後背地のスギ・ヒノキ林,竹林などが複合された里山環境などがハビタットとして重要である。

 

 

・植林地,耕作地を重要なハビタットとする種群
 
鱗翅類:
クロシジミ,ミヤマセセリ,アカシジミ,ミズイロオナガシシミ,オオミドリシジミ,コツバメ
 
甲虫類:
各種カミキリ類

 

 

ⅷ.砂浜,岩礁,洞窟などの無植生地
筑前海に面した砂浜海岸には,芦屋海岸など数カ所でアカウミガメが産卵のため上陸する。また,平尾台などの石灰岩地の洞窟や,各地の海岸,離島などの侵食洞窟では,洞窟性コウモリ類が生息している。

 

 

・洞窟を重要なハビタットとする種群
 
甲虫類:
チビゴミムシ類
 
哺乳類:
コウモリ類

 

・砂浜を重要なハビタットとする種群
 
爬虫類:
アカウミガメ
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