概要
「甲殻類その他」のレッドデータブックを作成するにあたっては,現在,福岡県内に生息している,あるいは生息の可能性がある甲殻類をはじめとする無脊椎動物を検討対象種とし(昆虫類,貝類,クモ形類等を除く),分科会でリスト化して1次リストとした。1次リストには,主に水域(淡水・汽水・海水)に生息する737種がリストアップされた。次に,資料調査,聞き取り調査と分科会委員による現地調査によって情報を収集し,福岡県RDB2001が作成された平成13年以降の生息状況の変化を定性的に評価して,分科会会議での検討を踏まえて,カテゴリーを決定した。なお,和名,学名については,「原色検索日本海岸動物図鑑 Ⅰ」(西村三郎編, 1992),「原色検索日本海岸動物図鑑 Ⅱ」(西村三郎編, 1995),「Systema brachyurorum: Part I. An annotated checklist of extant brachyuran crabs of the world」(Ng et al., 2008),「干潟の絶滅危惧動物図鑑」(日本ベントス学会編, 2012),および,その後出版された記載論文等に準じた。
2001年度版では希少種として,絶滅危惧:6種,準絶滅危惧:14種,情報不足:2種,絶滅のおそれのある地域個体群:1種の計23種をあげたが,福岡県RDB2014では,絶滅危惧IA類:5種,絶滅危惧IB類:7種,絶滅危惧II類:5種,準絶滅危惧:18種,情報不足:10種と,前回より22種多い45種を絶滅のおそれのある希少種として掲載した。内訳は,節足動物31種(うち甲殻類30種),環形動物6種,その他8種(刺胞動物3種,扁形動物1種,腕足動物2種,星口動物1種,脊索動物1種)である。絶滅のおそれのある希少種が増加した理由は,福岡県RDB2001では対象種を「淡水産動物」とし,淡水から汽水に生息する無脊椎動物を対象としていたのに対し,今回は対象環境を海域まで広げたことが大きい。なお,今回のレッドデータブックの「甲殻類その他」で,希少種としてリストアップされたすべての種が,海域や河川感潮域(潮の干満の影響を受ける範囲)に生息する動物であった。これは,これらの環境が人間生活の影響を強く受けて悪化していることに加え,比較的調査研究が進み,多少なりとも生息情報があることの両方に起因すると思われる。
ただし,「甲殻類その他」で,生息状況がわかっている種はごくわずかで,絶滅に瀕している種は,今回掲載した種よりはるかに多いものと予想される。例えば,トゲイカリナマコウロコムシArctonoella sp.,アリアケイトゴカイParheteromastus cf. tenuis,ニッポンフサゴカイThelepus cf. setosus,ムツアシガニHexapinus sexpes,ヨコナガモドキAsthenognathus inaequipes,ミサキギボシムシBalanoglossus misakiensisは,近隣の佐賀県・熊本県では絶滅が危惧されている種であるが,福岡県では確実な生息情報がなかったため,指定を見送った。今後,県内における詳細な調査が望まれる。