危機の要因と保全対策
「甲殻類その他」では,減少要因がはっきりしない種も少なくないが,福岡県RDB2014では,「河川開発」,「海岸開発」,「水質汚濁」,「産地局限」の4つが,「危機要因」として選ばれることが多かった。中でも,「河川開発」,「海岸開発」は,ハビタットの悪化だけでなく,消失をもたらすことが少なくない。また,ハビタットの分断・孤立化などによる「産地局限」は,繁殖個体の交流が難しくなるだけでなく,プランクトン幼生期を持つ種では,放出した幼生の大部分が無効分散になるなどの悪影響をもたらす(地域個体群ネットワークの崩壊)。以下,ハビタット毎に危機の要因を簡単に解説する。
- (1)砂質干潟
砂質干潟は,ウミサボテン,ニッポンオフェリア,テナガツノヤドカリ,ナメクジウオなどの生息地であり,堅い砂泥質の干潟とともに,生息環境の悪化が著しい場所である。原因は,底質の悪化(泥化や汚染)であると考えられる。泥化の原因は,ダム・砂防ダムの建設,河川や海域での砂利・砂の採取などである。一方,汚染の原因としては,生活排水や汚染物質の流入などが考えられる。
- (2)軟泥干潟
軟泥干潟は,アリアケカワゴカイ,アリアケヤワラガニ,ヒメムツアシガニ,ヒメヤマトオサガニなどの生息地として重要である。軟泥干潟は,潮流の弱い場所に形成されるため,底質の汚染などにより,貧酸素水塊や硫化物の影響を受けやすい環境である。また,特に海岸部の泥質干潟は,干拓や埋立によって消失する危険性が大きい。
- (3)河川感潮域
河川干潟と潮下帯は,イトメ,アリアケモドキ,カワスナガニなどの生息地として重要である。しかし,これらの場所では,水質・底質の悪化によって環境が悪化している場所が少なくない。また,河川改修や河川浚渫なども,このような場所に生息する種にとって,生存の脅威となっている。
- (4)塩性湿地
塩性湿地(周辺の裸地・転石地を含む)は,ウモレベンケイガニ,クシテガニ,アリアケガニ,シオマネキなどの生息地として重要であるが,その多くが,河川改修や河川浚渫などによって悪化・消失している。また,最近では,塩性湿地に浚渫土砂が捨てられることも多く,それが生息地破壊の直接の原因になっている。
この他,生息地ではないが,宿主特異性の高い種(寄生・共生種)にとって,宿主の減少は,生存に大きく影響する。カブトガニウズムシ(宿主は,カブトガニ),ウチノミヤドリカニダマシとオオヨコナガピンノ(宿主は,両種ともツバサゴカイ)などでは,宿主の減少が,生存に対する直接の脅威になっている。一方,マキガイイソギンチャク(宿主は,アラムシロ),アリアケヤワラガニとヒメムツアシガニ(宿主は,両種ともトゲイカリナマコ)のように,宿主は減少していないが,寄生共生種が減少している場合もある。