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各分類群の概論

保全対策

「甲殻類等」に掲載される多くの希少種の危機要因として,「河川開発」,「海岸開発」,「水質汚濁」,「産地局限」の4項目が頻出した。前3項目はハビタットの劣化と消失を引き起こし,結果としてハビタットの分断化による「産地局限」という危機も生じる。上述した(1)から(4)の重要なハビタットにおいては,これらの危機要因を排除することに加えて,希少種の生息数を増やすための自然再生を積極的に展開する必要がある。他方,掲載された希少種のいくつかは,他種との共生関係を有するため,宿主の減少が危機要因として挙げられている。これらは宿主も同様に希少種である可能性が高く,宿主のハビタットの保全に加えて,宿主の個体数の動態を長期的に評価すべきであろう。

上述した対策は主に福岡県行政が実施すべきことである。そのほか,本書の読者(個人や小規模組織)ができる保全活動をいくつか挙げておきたい。まず,「甲殻類等」の対象種(特に,絶滅危惧IA類や情報不足の種)は分布や生息量,生態などについて不明な点が多い。よって,本書に掲載されている希少種の多産地を発見した場合は福岡県環境部自然環境課にご報告いただきたい。本課は「福岡県希少野生生物分布情報」をデータベースとしてとりまとめており,希少種の分布情報を蓄積することが効果的な保全の一助となる。近年では特に,市民科学者による調査記録が保全に活用されつつある。例えば,カブトガニの生息状況を評価するうえで,各地の市民科学者が丹念に集積したモニタリングデータの貢献は非常に大きい。カブトガニに限らず,ハクセンシオマネキのような干潟表面で活動する生物は比較的観察が容易であり,個体数の変動などを各地でモニタリングできれば,その結果をもとに保全活動を展開できる可能性がある。

次に,野外にごみやペットを投棄・遺棄しないことである。福岡県内の干潟をスコップで掘ると,空き缶やプラスチック製品の破片,ビニール袋が頻出する。このような人工物は穴居性の生物に何かしら影響する可能性がある。そのほか,干潟に生息する甲殻類の体内にマイクロプラスチックが蓄積していることが明らかとなっている。また,ミシシッピアカミミガメが甲殻類などを捕食していることやアメリカザリガニが水質汚濁を引き起こすことが明らかとなっている。よって,基本的な社会のルールを順守した生活を心がけるだけでも,野生生物の保全に少なからず寄与することを理解していただきたい。

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