ハビタット
絶滅危惧種を守るには,ある特定の種を保護するのではなく,彼らのハビタット(生息・生育地)をひとつの生態系として保全することが何よりも重要である。同時に,ハビタットを保全することで,甲殻類等だけでなく,多くの種を守ることができる。ハビタットの保全は,移動能力が低く,特定の地域に依存している甲殻類等で特に有効である。以下に,そのようなハビタットのうちで,特に重要で保全が必要な環境と地域を記す。このうち,小規模な干潟・潮下帯,河川感潮域,塩性湿地は,人間活動に脆弱であるため,特に注意が必要である。
- (1) 干潟・潮下帯
長井浜・曽根干潟・和白干潟・多々良川河口・今津湾・加布里湾や有明海沿岸などに,比較的広大で良好な干潟・潮下帯が存在する。このうち,曽根干潟は,ハクセンシオマネキ,カブトガニなどの,加布里湾は,マキガイイソギンチャク,カブトガニなどの重要な生息地である。長井浜は,県下有数の砂質の干潟・潮下帯で,ウミサボテンなど砂底を好む動物が多産する。有明海沿岸には,広大で多様な干潟が広がっており,ミドリシャミセンガイ,ツバサゴカイ,ヒメムツアシガニ,ヒメアシハラガニ,トリウミアカイソモドキなどの泥底・砂泥底を好む動物が多産する。この他,小規模な干潟ではあるが,築上郡の上り松川には,シオマネキが高密度に生息するほか,ウモレベンケイガニやクシテガニなども生息する。三池港周辺の干潟・潮下帯には,トリウミアカイソモドキ,メナシピンノが多産するほか,オオシャミセンガイ,ツバサゴカイ,カブトガニ,ナメクジウオも確認されている。中でも,三池海水浴場は,ムギワラムシ,ヤドリカニダマシの多産地で重要である。
- (2) 河川感潮域
有明海に流入する筑後川・矢部川などには,広大な河川干潟が発達するが,そこは,フタツトゲテッポウエビ,ヒメモクズガニ,アリアケガニ,ハラグクレチゴガニ,シオマネキなどの重要な生息地である。これらのカニ類は,海域の干潟にはほとんど生息しない。一方,豊前海に流入する城井川・佐井川や,筑前海に流入する紫川・西郷川・泉川などには良好な河川潮下帯があり,汽水域上流部を好むイトメ,タイワンヒライソモドキ,カワスナガニなどの重要な生息地となっている。
- (3) 塩性湿地
塩性湿地(ヨシ,フクドなどの塩生植物群落と周辺の裸地・転石地)は,ウモレベンケイガニ,クシテガニ,ベンケイガニ,ハマガニ,アリアケガニなどの重要な生息地である。築上町上り松川,行橋市の祓川,今津湾,筑後川,沖端川,矢部川などに,甲殻類等の生息に適した良好な塩性湿地が存在する。これらの塩性湿地の多くは小規模であり,堤防工事・河川浚渫などの際に悪化・消失する危険性が高い。多くの人々が,塩性湿地の重要性を認識することが何よりも重要である。