概要
2001年版では,陸・淡水・汽水域に生息する貝類を選定対象とし,海域の種についてはウミマイマイなどごく少数を取り上げた。続く2014年版では,日本ベントス学会(2012)が干潟域のベントスのレッドデータブックを刊行し,環境省も2012年の第4次レッドリストの見直しにおいて干潟・内湾域の貝類を加えたことから,こうした動向を受けて,福岡県でも海域の貝類を選定対象としたが,干潟・内湾域に限定せず,全ての種を選定対象とした。したがって,2014年版では2001年版から掲載種数が飛躍的に増えることとなった。さらに,10年後となる今回の2024年版では,基本的には前回の2014年版と同じく,全ての種を対象とした(後述したように一部を除く)。選定には,前回に作成したデータベースをもとに,その後の分布情報を加えて評価したことから,大部分は2014年版で取り上げた種を引き継いでいる。
今回のとりまとめでは,以下のような特徴が挙げられる。まず,陸産貝類については,人員,地点数ともに前回よりも充実した調査を行うことができ,県内の陸産貝類はこれまで考えられてきた以上に多様性に富むことが明らかになってきた。特に,離島においては,2014年版では生息情報の多くが,1960年代などの古い文献記録に基づくものであったが,現地調査を行うことで,一部の種においては文献記録との相違について明らかになるなど,成果の一部を今回の評価にも反映することができた。次に,淡水産貝類については中島淳,海産貝類については,水元己喜雄の両氏による現地調査から評価,原稿執筆に至る協力を得たことに加え,日頃から県内で生物の分布調査を精力的に行っている多くの協力者により,貝類の生息状況をより詳細に把握することができたことが挙げられる。例えば,淡水産貝類では,2022年に福岡県で初めて記録されたヒメヒラマキミズマイマイ,海産貝類では,2022年に新種記載されたばかりのハチザクラ(死殻)を確認するなど,多くの新しい情報を評価に盛り込むことができた。また,各種の評価カテゴリーの変化をみると,例えば,ニセマツカサガイやカワモトギセルが,前回の絶滅危惧IB類から今回の絶滅危惧IA類へと,より絶滅確率の高い評価に変更されているように,多数の種の存続が危機的状況にあることが明らかとなった。これは,これらの種の多くの生息域が,もともと極限的である上に,個体数も少ないという状況にあり,生息環境の理解が不足しているにも関わらず河川改修や森林開発などが進行していることが主な原因である。このような種の存続については一刻の猶予もない状況であり,開発などにおける生息環境への配慮や保護を強く求めたい。また一方で,タケノコカワニナのように,詳細な分布調査が進むことで,生息確認地点が増え,絶滅の水準を下げて評価した種もみられた。最後に,今回,最も食卓に身近なアサリを準絶滅危惧として評価せざるを得なかったのは執筆者らとしても大変驚きであった。貝類分科会で行った有明海の調査では,数年前まで最も普通に採れていた種が,全くといって良いほど,生貝を確認するのが困難な状況であった。減少には様々な要因が絡んでいるものと推測するが,貝類にとっての生息環境がいかに悪化しているかを象徴しており,今後の好転を願うばかりである。