概要
希少植物群落の選定に関しては,県内に存在が確認されている全群落を対象として,現地調査,文献,環境省自然環境保全基礎調査2.5万分の1植生図(2010年に福岡県内全図幅の改訂が終了)などをもとに,植物分科会群落グループにおいて,後述する選定基準に従って検討し,選定した。 群落の区分および名称については,福岡県レッドデータブック2011(以下「RDB2011」という。)を踏襲して,原則として優占種1種で区分し,群落名とした。優占種1種による群落記載は,相観(植生の外観)による区分が可能であること,既存文献などのデータから読み替えが容易であること,植物群落レッドデータブック(我が国における保護上重要な植物種および植物群落研究委員会植物群落分科会,1996)でも用いられていることなどの点で有用である。 この方法により区分された群落が,種組成に基づいて植物社会学的に命名された群集単位に該当する場合は,その群集名を本文中の群落の概要欄に記した。群集名は,原則として福岡県植物誌(福岡県高等学校生物研究部会,1975),日本植生誌九州(宮脇,1981),日本植物群落図説(宮脇・奥田,1990)の記載に準じた。なお,環境省特定植物群落に選定されている個体群については,本来は群落の構成要素として位置付けられるものであるが,特定植物群落の選定基準に個体群があること,選定された個体群も特定植物群落として周知されている現状があることを踏まえ,福岡県レッドデータブック2001(以下「RDB2001」という。)およびRDB2011に引き続き,調査対象として検討し,記載した。 また,本文中の植物の和名については,福岡県レッドデータブック2024(以下「RDB2024」という。)維管束植物に合わせて,GreenList 2016およびFernGreenList ver. 2.0の掲載種名を用いた。 植物の和名については,「日本の野生植物 草本Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」(佐竹ほか,1981,1982a,1982b),「日本の野生植物 木本Ⅰ,Ⅱ」(佐竹ほか,1989a,1989b),「日本の野生植物 シダ」(岩槻,1992)に従った。
今回の改訂において,群落区分および記載方法などがRDB2011と異なる点は,以下のとおりである。
- (1)RDB2011ではスダジイ群落とツブラジイ群落を別の群落として区分していたが,RDB2024ではスダジイ・ツブラジイ群落として統合した。両種が混生するシイ自然林が見られること,植物社会学的植生単位としては,ツブラジイ優占群落であってもスダジイの名称を使用していること(例えば,ヤブコウジ-スダジイ群集にはツブラジイ優占群落も含まれる)ことによる。
- (2)RDB2011のシロイヌノヒゲ群落には異なる群落が含まれていると判断されたため,RDB2024では小型草本群落のシロイヌノヒゲ群落と中型草本群落のサツママアザミ群落に分割した。
- (3)群落名称のみではその植生が判然としない7群落については,RDB2011において群落名称の後に限定する植生内容・立地名称などを記していたが,新たにヤブニッケイ群落〔石灰岩地植生〕,アラカシ群落〔石灰岩地植生〕,ススキ群落〔半自然植生〕の3群落についても同様の取り扱いとした。
- (4)個体群については植生単位としての群落と混同しないようにするため,名称の後に個体群の語を記した。具体的には,クロモジ群落〈個体群〉,オオミズゴケ群落〈個体群〉,ツクシシャクナゲ群落〈個体群〉,ヒモヅル群落〈個体群〉,タマミズキ群落〈個体群〉,ゲンカイツツジ群落〈個体群〉,ヤブツバキ群落〈個体群〉,サザンカ群落〈個体群〉の8群落である。
掲載群落は,RDB2011と同様に植生体系に基づいて階級的に整理した。すなわち,表 群落-2に示すように,大区分を植生クラスおよび自然植生・代償植生,中区分を相観(植生の外観),小区分を植物群落(単一群落)として体系化し,俯瞰的理解が容易になるようにした。また,植物社会学的群落名がある場合は,環境省2.5万分の1植生図の記載形式に従い,原則として標徴種-優占種による群落名(例えば,ミミズバイ-スダジイ群集)を用いて本文中に記した。 今回の改訂で選定された群落は,カテゴリーⅠ(緊急に対策必要):14群落,カテゴリーⅡ(対策必要):29群落,カテゴリーⅢ(破壊の危惧):39群落,カテゴリーⅣ(要注意):15群落,合計97群落であった(カテゴリー基準については後述する)。 RDB2011からのカテゴリー変化状況を新旧対照表として表 群落-1に示す。その評価結果を要約すると,以下のとおりである。
- (1)上位のカテゴリーに移行した群落(対策の緊急性が増大した群落,カテゴリー外からの新規記載を除く)は,8群落であった。主な危機要因(最も影響が大きい要因として判断されたもの)として,湿生植物群落のシロイヌノヒゲ群落,ミヤマシラスゲ群落では遷移進行,河川域植生のヒロハマツナ群落,エノキ群落では河川開発が挙げられた。また,マテバシイ群落ではカシノナガキクイムシによる被害が各地で発生していることから,病害虫が挙げられた。
- (2) 下位のカテゴリーに移行した群落(対策の緊急性が低下した群落)は,12群落であった。その多くは,群落状態が前回に比べて安定化し,生育状況がより良好になったと判断された群落である。また,ツクシシャクナゲ群落〈個体群〉については,シカの忌避植物であり,さらに英彦山地などでは上層木の枯損により生育良好となったことによる。
- (3)掲載群落のうち,草本群落(ハマゴウ群落を含む)の数とその割合は,全体:97群落中の51群落(53%),カテゴリーⅠ:14群落中の11群落(79%),カテゴリーⅡ:29群落中の23群落(79%),カテゴリーⅢ:39群落中の11群落(28%),カテゴリーⅣ:15群落中の6群落(40%)であった。したがって,保全対策の緊急性が高いカテゴリーⅠおよびⅡには,草本群落の占める割合が大きかった。