保全対策
今回選定された群落の危機要因について表 群落-3に示す。危機要因の合計数を多い順に挙げると,海岸開発(28群落),遷移進行(27群落),シカ増加(24群落),河川開発(19群落),自然災害(18群落)であった。
海岸開発や河川開発などの開発行為を危機要因とする群落の多くは草本群落であった。その中には,ハママツナ群落,ウラギク群落などのように自然公園区域に隣接する群落も確認された。2014年には津屋崎干潟(福津市)が玄海国定公園区域に編入されたが,このような自然公園の拡張なども保全施策として有効と考えられる。
遷移進行を危機要因とする群落のうち,ススキ群落〔半自然植生〕やコナラ群落などの二次植生(二次草原,二次林)については,今後,群落維持のための人的管理の仕組みなどを整えていく必要がある。コイヌノハナヒゲ群落やシロイヌノヒゲ群落などの湿生植物群落についても,遷移進行を抑制する生態学的管理方法などについて検討が望まれる。
シカ増加は,RDB2011で初めて取り上げられた危機要因で当時は9群落が挙げられたが,今回は24群落と大幅に増加した。RDB2011ではブナ群落,ミズナラ群落などブナクラス域またはこれに隣接する植生の危機要因であったが,今回はそれらに加え,ヤブツバキクラス域のスダジイ・ツブラジイ群落やウラジロガシ群落などでも主な危機要因として取り上げられた。特にブナクラス域の植生におけるシカ被害が深刻であることから,県内ブナ林域におけるニホンジカの生態学的管理対策も早急に望まれる。
自然災害は1991年の台風被害に起因するものが主なものであった。30年が経過した現在においても植生は回復途上にあると考えられるので,今後も継続的なモニタリングが望まれる。
以上,危機要因の視点から保全対策について述べた。福岡県では2022年に「福岡県生物多様性戦略2022-2026」が策定され,「重要地域を核とした生態系の保全・再生を図るとともに,それらをつなぐ生態系ネットワークの形成を進めます」が目標の一つとして掲げられている。今回選定された植物群落は,生物多様性保全上の重要地域に位置づけられるものが多いと考えられ,今後,積極的な保全の推進が必要である。また,2023年に策定された「生物多様性国家戦略2023-2030」では,保護地域の拡充が行動目標の内容として挙げられている。自然公園等の保護制度の対象となっていない掲載群落については,その候補地として検討するなどの施策の展開が期待される。