はじめに
国際自然保護連合(IUCN)は,絶滅の危機にある生物リスト(レッドリスト)を1986年からほぼ2年おきに発表し,2006年からは毎年更新している。2000年9月の『レッドリスト2000』発表当時には,種の保全は「極めて深刻な事態」と警告した。その後,世界各国の努力により種の減少速度は多少緩やかになったかも知れないが,地球全体での事態は一向に好転していないのが現状のようである。
本県では,2001年3月に『福岡県の希少野生生物 -福岡県レッドデータブック2001-』を発刊し,種の保全に努めてきた。この中で,私は,「当然のことながら絶滅危惧種はこれを安全な個体数まで回復させるためのメルクマールとしての意味があるのであり,指定することそのものに意義があるわけではない」ことを強調し,「存続可能最小個体群(いわゆるメタ個体群)」に注目することを推奨した。そして,個体の体の大きさは生息地の広さと相関することから,ハビタットとしての植物群落を重視することにした。この初版の発刊から既に10年が経過した。果たして,ハビタット重視は種の保全に効果があったであろうか?
福岡県レッドデータブックの改訂に関する作業は,2007年9月に発足した「福岡県希少野生生物保護検討会議」の開催により始まった。改訂にあたっては,二つのグループに分かれ,改訂作業もグループごとに年次を分けて進めることになった。すなわち,まず平成20~22年度の3年間で第1グループ(植物群落,植物,哺乳類,鳥類)が検討を行い,その成果を第1グループ分の改訂版として平成23年度に公表するとともに,引き続き,平成23~25年度に第2グループ(爬虫類・両生類,魚類,昆虫類,貝類,甲殻類・その他)が検討を行い,その成果を第2グループの改訂版として平成26年度に公表するものとし,検討および原稿作成は,分科会ごとに実施することとした。本書は第1グループの検討結果をとりまとめたものである。
2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を契機として,「SATOYAMAイニシアティブ」を効果的に推進するための国際的な枠組みが設立された。このSATOYAMAイニシアティブは,人々が古くから持続的に利用や管理をしてきた「社会生態学的生産ランドスケープ」の維持や構築を図り,生物多様性と人間の福利に資する「自然共生社会」の実現を目指している。
本県においてもこのような考え方が十分に取り入れられ,国際的にも誇るべき自然共生社会を実現することが大いに期待される。
2011年11月30日
福岡県希少野生生物保護検討会議
会長 小野 勇一