福岡県レッドデータブック

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各分類群の概論

概要

レッドデータブック改訂(以下レッドデータブックはRDBとする)の検討にあたって,既存資料をもとに福岡県に現在生息している,あるいは過去に生息していたと考えられる8目19科37種を福岡県哺乳類目録として整理した。今回のRDB改訂に係る調査の結果,翼手目1種が新記録として確認されたため,それを加えて8目19科38種を現在の福岡県哺乳類目録とした。なお,福岡県RDB2011では8目19科44種が目録に挙げられていたが,今回は在来種に絞り,外来種7種[イヌ(RDB2011のノイヌ),イエネコ(RDB2011のノネコ),シベリアイタチ(RDB2011のチョウセンイタチ),アライグマ,ドブネズミ,クマネズミ,ハツカネズミ]は目録から除いた。筑前国続風土記(貝原編 1703,1709),筑前国産物帳(作者不明 1736,西日本新聞社 1975)などで過去に福岡県に生息していた記録のあるオオカミ,カワウソ,ニホンアシカ,ニホンカモシカは,絶滅種として目録に記載した。ニホンリスおよびツキノワグマについては,RDB2001において「過去における県内生息の確証が得られなかった」として対象外とされている。その後も,新規の情報は得られていないことから,今回も対象外とした。

表 哺乳類-1 福岡県哺乳類目録

福岡県哺乳類目録をもとに,今回のRDBで検討する種を抽出した。RDB2011の改訂の際に検討対象とした種はすべて今回も対象種とした。さらに,ニホンジネズミとヒミズは近年確認が少ないことから,今回は対象に加えた。また,今回新たに生息が確認されたモリアブラコウモリも対象種とした。基本的に対象地域は陸域としたが,前回同様,海棲哺乳類の中で,スナメリは沿岸部を主な生息環境としていることから検討対象に含めた。これらの対象種のほかに翼手目のクロホオヒゲコウモリMyotis pruinosus,シナオオアブラコウモリHypsugo pulveratusは福岡県内に生息の可能性があるとして調査対象としたが,今回の調査では生息は確認できなかった。以上により,ランクを検討した種は計27種となった。

なお,和名,学名,種の特徴については,原則として「The Wild Mammals of Japan 2nd ed.」(Ohdachi et al.2005)と日本哺乳類学会による「世界哺乳類標準和名リスト2021年度版」(川田ほか 2021)に従った。翼手目については「識別図鑑日本のコウモリ」(コウモリの会編 2023)に従った。

今回の改訂作業に当たっては,以下の現地調査および情報収集を実施した。

  • (1)コウモリ類を対象として,2021年6月~2023年11月に,主に自然度の高い英彦山,犬ヶ岳,釈迦岳およびカラ迫岳周辺域の森林,洞窟や隧道において計12回の本格的な調査を行った。調査方法として,カスミ網3~5地点とハープトラップ2地点の設置による捕獲や捕虫網による手取り,バットディテクターと超音波無人機の併用による音声録音および写真撮影の記録を採用した。
  • (2)ムササビを対象として,2021年11月~2023年10月に,英彦山地,三郡山地,釈迦岳山地において直接観察と痕跡調査による生息調査を行った。調査回数は各々3日,1日,1日であった。
  • (3)二ホンモモンガとヤマネを対象として,2021年12月~2023年10月に,英彦山地と脊振山地,釈迦岳山地において巣箱と自動撮影カメラを併用した生息調査を行った。使用した巣箱と自動撮影カメラは,英彦山地でのべ616台・日,脊振山地ではのべ602台・日,釈迦岳山地ではのべ267台・日であった。
  • (4)カワネズミを対象として,2022年2月~2023年10月に,北九州市の黒川および紫川,添田町彦山川,糸島市加茂川,八女市矢部川の各上流部において痕跡調査と自動撮影カメラによる調査を行った。使用した自動撮影カメラは,黒川のべ40台・日,紫川のべ204台・日,彦山川のべ144台・日,加茂川のべ207台・日,矢部川のべ178台・日であった。
  • (5)福岡県環境部自然環境課により2021年11月5日〜6日,2022年6月15日〜17日に実施された宗像市沖ノ島の合同生物相調査に分科会から各2名が参加した。2021年の調査には分科会委員の佐々木と渡部が参加し,シャーマントラップ,自動撮影カメラを用いて小型哺乳類に関する調査を実施した。2022年の調査には分科会委員の渡部と調査協力者の衣笠が参加し,シャーマントラップ,自動撮影カメラ,バットディテクターを用いて小型哺乳類に関する調査を実施した。
  • (6)科会委員に個人的に寄せられた情報,委員各自の2010年以前の調査結果も検討資料とした。
  • (7)国による福岡県の自然環境調査資料,福岡県や県内市町村による自然環境調査資料,既存資料の収集を行った。収集にあたって,事務局九州環境管理協会にご協力いただいた。

その結果,福岡県RDB2024では,哺乳類として絶滅4種,絶滅危惧IA類1種,絶滅危惧IB類1種,絶滅危惧II類10種,準絶滅危惧11種を選定した。各種の記述にあたって,絶滅種の分布は過去に記録のある地域を示した。

今回は前回情報不足であったノレンコウモリ,オヒキコウモリもランクを決定したことから,「情報不足」の種はなくなった。ランクアップした種はカワネズミ,ハタネズミ,スミスネズミであった。特にカワネズミは英彦山および脊振山付近から情報が得られているものの,今回の調査では確認することができず,分布の局在化が懸念される。ランクダウンした種はヤマネとカヤネズミであった。ランクダウンした2種のうち,ヤマネは生息状況が好転しているわけではなく,情報が増えた結果,より正確な判定ができたと考えられる。カヤネズミは,生息環境は非常に不安定であり,継続的な生息地が確保されているわけではないものの,県内の各地で確認できていることからランクダウンした。

特筆すべき成果として,英彦山周辺域で本県から初めてモリアブラコウモリが捕獲されたこと,みやま市の新幹線高架橋のスリットでオヒキコウモリの生息が確認されたことが挙げられる(いずれも絶滅危惧Ⅱ類)。また,絶滅危惧IA類としたニホンモモンガについては,「彦山の動物」(黒子 1958)の生息の記述以降情報がなかったが,今回の調査により英彦山で確認することができた。

沖ノ島で2回の調査を行ったが,確認されたのは外来種のクマネズミのみで,在来種(ジネズミ類,コウモリ類)は記録されなかった。沖ノ島では1955年に九州大学のチームによってオキノシマコジネズミCrocidura suaveolens okinoshimaeが捕獲され,亜種記載された(Kuroda and Uchida 1959)[後にオキノシマジネズミCrocidura dsinezumi okinoshimaeと変更(今泉 1960)]。1962年の捕獲(黒木ほか 1966)を最後に記録がない。標本は1個体だけ残っており,九州大学農学部に保管されている。しかし,亜種記載の重要な形質となっていた頭骨が消失しており,仮剥製が残っているのみである。

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