福岡県レッドデータブック

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種の解説

概要

希少種の選定にあたっては,まず県内の哺乳類相を正確に把握する必要がある。また,九州では熊本県や宮崎県を中心に,ニホンモモンガやコウモリ類などの再確認や新記録が相次いでいる。その一方で,在来種の生息を脅かしかねないアライグマ,マングースおよびクリハラリス(タイワンリス)などの外来種の生息も確認されている。これらの外来種に関する情報は,在来種の生息状況を検討するためにも必要である。そこで,福岡県だけでなく九州全体を考慮し,9目25科71種(亜種)を念頭に調査や情報収集を行った。対象地域は海岸から山地までの陸域としたが,海棲哺乳類の中でスナメリ(鯨目ネズミイルカ科)は沿岸部の浅海域を主な生息の場とし,人の活動の影響を直接受けやすいことから,唯一海域における検討対象種とした。
調査結果や収集資料をもとに哺乳類分科会で検討した結果,福岡県に現在生息している,あるいは過去に生息していたと判断される8目19科44種を福岡県哺乳類目録として掲載し(表 哺乳-1),これらを希少性の検討対象種とした。福岡県RDB2001では40種が対象であったが,今回の目録の中のノイヌ,ノネコおよびスナメリについては対象を拡大したことによるもので,実際には外来種のアライグマのみが追加された。なお,ツキノワグマとニホンリスについては,福岡県RDB2001と同様に「過去における県内生息の確証」が今回も得られなかったことから,検討対象外とした。
和名と学名について,スナメリ以外は「日本の哺乳類(改訂2版)」(阿部(監),2008)に,スナメリは「The Wild Mammals of Japan」(Ohdachi et al., 2009)に準じた。
希少性の検討にあたっては,主に以下の調査結果や資料に基づき,福岡県RDB2001以降の生息状況の変化を可能な限り詳細に評価し,カテゴリーを決定した。

  • (1)哺乳類分科会として,ニホンモモンガとヤマネを対象に,英彦山地と脊振山地において巣箱調査を2009年3月~2011年1月に行った。使用巣箱は英彦山地で50個,脊振山地で50個であった。
  • (2)哺乳類分科会として,森林性コウモリ類を対象に,主に英彦山地(平成20年度),脊振振山地(平成21年度)および耳納山地(平成22年度)において,かすみ網とバット・ディテクターによる確認調査を行った。これらの調査時には,シャーマン・トラップによる小哺乳類の捕獲確認調査や,カワネズミの糞確認調査なども平行して行った。
  • (3)福岡県環境部自然環境課により,2010年6月2日~5日に行われた宗像市沖ノ島の調査に哺乳類分科会として2名が参加した。
  • (4)県内各地において2008年4月~2011年1月まで,哺乳類分科会の各委員が独自に個別調査を行った。調査方法は,罠による捕獲調査,目視調査,痕跡調査および聞き取り調査などであった。また,個人的に寄せられた情報や,委員各自の2008年以前の調査結果についても検討対象とした。
  • (5)国(河川水辺の国勢調査,環境省の資料)の福岡県関係資料,福岡県や県内の市町村が行った自然環境調査の報告書および古文書関係の資料の収集を行った。

福岡県RDB2001では,希少哺乳類として,絶滅:4種,絶滅危惧:3種,準絶滅危惧:9種,情報不足:7種の計23種であった。今回は,絶滅:4種,絶滅危惧IA類:1種,絶滅危惧IB類:1種,絶滅危惧II類:6種,準絶滅危惧:10種,情報不足:2種の計24種を指定した(表 哺乳-2)。
福岡県RDB2001と比較して,希少種数は今回1種多くなっている。これは前回検討対象外であったスナメリを「準絶滅危惧」と判断したことによるもので,基本的に同種数であった。しかし,内容的には福岡県RDB2001で「情報不足」であった7種について,福岡県RDB2001以降の情報量,分科会独自の調査結果および九州各県からの情報などを参考に,ニホンモモンガを「絶滅危惧IA類」に,ヤマコウモリ,テングコウモリおよびコテングコウモリを「絶滅危惧II類」,モモジロコウモリを「準絶滅危惧」と判断し,ノレンコウモリとオヒキコウモリはそのまま「情報不足」とした。また,カワネズミを,「準絶滅危惧」から「絶滅危惧II類」へ絶滅の危険度を高めた。これまでランク外であったキツネに関する情報が,県内において最近少なくなっていることから,キツネを「準絶滅危惧」とした。一方で,アナグマに関しては県内各地から最近多くの情報がもたらされていることから,「準絶滅危惧」からランク外とした。しかし,多くのアナグマ情報がもたらされている要因が明確でないことから,今後も継続調査を行うなど,注意深く動向を見守っていく必要がある。
近年,熊本県と宮崎県を中心に九州南部の森林では,約30年振りにニホンモモンガが数カ所で確認され,またこれまで極めて少なかったヤマネの情報量もここ数年増加している。更に,コウモリ類に関しても既存種だが新たな生息地の発見や,クロホオヒゲコウモリのように珍しい記録などが得られている。福岡県も英彦山地や脊振山地などの森林地帯を擁しており,今回の改訂にあたり,これらの地域で主にニホンモモンガ,ヤマネおよび森林性コウモリ類を対象に調査を行った。しかし,いずれも生息を確認することはできなかった。ヤマネとコウモリ類に関しては,これらの地域以外から若干の情報が得られたが,九州中・南部に比較すれば格段に情報量が少ない。
沖ノ島の調査における哺乳類分科会としての調査目的は,島の哺乳類相を明らかにすること以外に,1944年に確認されたオヒキコウモリの生息確認,および1955年に捕獲され,ジネズミの1亜種とされたオキノシマジネズミCrocidura suaveolens okinoshimaeの生息状況と分類学上の課題解決(最近は,一応ニホンジネズミC. dsinezumi dsinezumiとされている)にあった。結果として,両種とも生息の確認ができなかったが,希少種のヒナコウモリが新たに確認された。
多くの種が希少種として挙げられている一方で,イノシシとニホンジカについては個体数が非常に増加し,農林業などに深刻な被害を与えている。なかでもニホンジカは,林床植生や希少植物などに過度の採食圧による影響を及ぼしている。このように,哺乳類では生息個体数に増加と減少の二極化が認められる。更に県内では,特定外来種のアライグマの生息および生息域の拡大が確認され,農作物への被害に加え,人の健康への影響および生息環境をめぐる在来哺乳類との競争や餌動物である両生・爬虫類への影響などが懸念される。
各種の記載項目の「分布情報」について,希少種では基本的に情報量が少ないことから,原則として過去の全ての確認地を市町村単位で記した。しかし,個体数は少ないが,県内に広く分布している種については,煩雑さを避けるため福岡県RDB2001以降(情報年としては2000年以降)の情報のみを示した。また,市町村名については,合併して新名称となった後の情報は新名称で,旧名称時の記録や情報は「旧」を付して旧市町村名で表記した。
哺乳類分科会として本報告を作成するにあたり,委員以外に武石全慈,山根明弘,安藤元一,一柳英隆の各氏に調査協力および貴重なご意見・情報をいただいた。

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