保全対策
- 1.生息環境の維持
多くの種の生息環境は山地の自然林が中心であると考えられる。樹洞がある大径木,林内湿地,山地渓流も重要な構成要素である。県内は人口も多く,大都市も発達していることから,現在の森林部が,減少,分断化しないように配慮することが必要である。自然河川や河川敷,草地は,開発や人間による利用,または人間が利用・管理しなくなったことにより消失しつつあり,それらの環境の維持も必要である。また,特殊な生活様式を持つコウモリ類の保全のためには,自然洞窟,廃坑やダム工事用の横坑などの人工洞穴および隧道もできる限り維持管理しておくことが望ましい。カワネズミの生息が新たに確認された地域もあり,渓流の保全およびその渓流を維持するための周囲の環境,生態系の保全が必要と考える。
- 2.外来種の除去と侵入防止
県内にも多くの外来生物が定着している。哺乳類ではイヌ,イエネコ,シベリアイタチ,アライグマ,ヌートリア,ドブネズミ,クマネズミ,ハツカネズミが挙げられる。これらを含む外来生物による在来哺乳類への直接の影響に関する具体的な報告は現在のところないが,イヌ,イエネコは小型哺乳類を捕食している可能性は高く,在来の食肉目との競争も考えられる。シベリアイタチは近縁のニホンイタチとの競争が考えられ,ニホンイタチの生息環境が山地森林部に限定されている。また,近年急増しているアライグマは,今回実施したカワネズミを対象とした河川での調査すべてにおいて確認されており,さまざまな種と餌や生息場所を巡る競争が懸念される。
- 3.交通事故の防止
県内は山地部も含め,交通網が発達しており,夜間も交通量が多い場所もある。野生動物の交通事故件数の全県的な資料がないが,注意喚起が必要である。
- 4.共存策の検討
近年,ニホンジカやイノシシ,アナグマなどによる農作物被害,森林環境の撹乱,生活被害などが問題となっている。それに対して,ある程度の個体数のコントロールが必要な場合もあるが,人と動物の生活圏の分離,特に緩衝地帯を設定することで野生動物との直接的な軋轢を緩和することや,人為的な餌資源の排除など生活の中の工夫によって共存の方法を考えることが望ましい。
- 5.普通種の保護
RDB2011でも今回も対象としなかった種は,コウベモグラ,キクガシラコウモリ,アブラコウモリ,アカネズミ,ヒメネズミ,ニホンノウサギ,タヌキ,ニホンテン,アナグマ,ニホンジカ,イノシシであった。これらの種は県内に普通種として生息していると考えられる。しかし,それぞれの生息環境は変化しつつあり,外来種の影響なども増加していることから,今後の動態には注意する必要がある。その種の減少だけでなく,生態系全体のバランスが崩れる事になる。