ハビタット
福岡県内の哺乳類における希少種の絶滅を防止し,種多様性を堅持するための重要な生息の場として,以下のような環境が考えられる。
- (1)山地樹林
ニホンモモンガ,ヤマネ,スミスネズミおよび森林性や半洞窟性コウモリ類など,希少で森林への依存性の高い種はもちろんだが,希少性の程度とは関係なく,ほとんどの哺乳類にとって自然林は非常に重要なハビタットである。特に,釈迦岳山地,英彦山地,古処山地,三郡山地,耳納山地,筑肥山地および脊振山地に存在するブナ,ミズナラ,アカガシ,シイなどの複合群落は重要な生息環境である。また,これらの山地樹林をつなぐコリドーとしての役割を果たす平地樹林も必要である。 - (2)山地渓流
山地樹林の中を流れる渓流は,水中生活に適応した唯一の哺乳類としてのカワネズミの生息環境である。また,これらの渓流から羽化する水生昆虫類は,コウモリ類の重要な餌でもある。 - (3)社寺林
樹洞をもつ大径木は,ムササビにとって格好の生息環境であり,テンなどのねぐら環境でもある。このような生息環境は,社寺林として残されていることが多く,太宰府市の太宰府天満宮,豊前市の求菩提龍王院,朝倉市の垂裕神社などが挙げられる。
- (4)自然洞窟・廃坑
北九州市の平尾台および香春町から福智町にかけての石灰岩地帯などに存在する鍾乳洞や,福岡市西区の大机島の海蝕洞などの自然洞窟,更に鉱山やダム試掘坑などの人工的な洞窟の廃坑は,洞窟性や半洞窟性コウモリ類の重要な生息環境である。特に,洞窟性コウモリ類は季節によりねぐらを使い分けることから,温度や湿度などの条件が異なる複数の洞窟が必要である。 - (5)草地・河川敷
カヤネズミやハタネズミにとって,平地から低山地にかけて広がる耕作地周辺の草地や,矢部川,筑後川,遠賀川など大河川の河川敷で,草地として維持されている環境は重要な生息地である。特に,丈の高いオギ,ススキ,チガヤなどイネ科植物の繁茂する環境は,繁殖のための球巣やラン・ウエイの形成に有利である。