福岡県レッドデータブック

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各分類群の概論

概要

今回のレッドデータブック(以下,RDBとする)改訂に際しては,水生昆虫類,陸生コウチュウ類,チョウ・ガ類,ハチ類,陸生カメムシ類,ハエ類を中心として,分科会委員ならびに調査協力者による現地調査と文献調査を実施し,可能な場合は生息状況の変化を定量的に,それが困難な場合は定性的に判断してランクを決定した。

カテゴリー別の掲載種数は,前回のRDB2014では絶滅6種,絶滅危惧IA類37種,絶滅危惧IB類73種,絶滅危惧II類119種,準絶滅危惧126種,情報不足56種の合計417種を掲載していた。今回の改訂では,絶滅15種,絶滅危惧IA類39種,絶滅危惧IB類70種,絶滅危惧II類91種,準絶滅危惧125種,情報不足98種の合計438種を掲載しており,RDB2014掲載種数から21種の増加となっている。今回掲載種数がRDB2014からそれほど増加しなかった要因としては,県内の生息状況が比較的良く解明されてランク外に変更になったもの,分類学的な問題を含んだものや生息状況が不明で減少しているのか不明なものを除外したことによる。しかしながら,水生昆虫類では前回より掲載種数が15種増加,昆虫類全体でも絶滅とした種が6種から15種に増加しており,県内の自然環境保全にはまだ課題がある状況といえる。

水生昆虫類(カゲロウ目,トンボ目,カメムシ目,コウチュウ目,トビケラ目)は,前回126種を掲載していたが,今回の改訂で141種を掲載した。前回掲載種のうち,県内からの確実な分布記録が確認できない1種(シジミガムシ)、分類学的変更があった1種(マルケシゲンゴロウ)と近年増加して当面の絶滅危機が去ったと判断された2種(コオイムシ,ウスイロシマゲンゴロウ)はランク外とした。県内の水生昆虫類の生息状況については,トンボ目,カメムシ目,コウチュウ目については調査者が多く,比較的把握できていると思われる。一方で,カゲロウ目,トビケラ目については調査者が少なく,前回から引き続き情報不足のままとした種が多い。また,今回は絶滅種として13種を選定した。これは前回が4種であったことを考えると大幅な増加となる。

陸生コウチュウ類は,前回109種が選定されていたが,今回の改訂では96種に減少した。しかし,これは危機的状況にあった種の個体数の回復や生息環境の好転を意味するものではない。県内から記録されている陸生コウチュウ類は約3,000種に上り,依然として新たな種も追加記録されてはいるが,近年における分布調査や分布記録の公表は少なく,全体的な生息状況の把握が困難な状況である。そのため,今回選定した種には,比較的大型で目立ちやすいものや環境の指標になる種が多く含まれている一方で,前回以降調査が進み生息の確認ができた種以外にも,主に分類学的な問題を含んだ種や生態が不明で減少しているのか不明な種を選定から外す結果となった。実際には,生息状況の実態が十分につかめないまま減少・絶滅に向かっている種がさらに多くあると考えられる。

チョウ類は,県内で記録があるとされている112種について後述の新基準に基づき検討し,過去に数例のみ記録されている種については標本などを精査し種同定の確認を行った。チョウ類は愛好家が多く県内における生息情報数は多いものの,情報が特定の種や場所に偏っていたため,現状を正確に把握するのが困難であった。そこで過去の記録地以外の場所も含め網羅的な野外調査を行った。また,成虫のみならず卵や幼虫,蛹なども調査を行った。その結果,50年以上正式な記録がなかったキバネセセリの生息が確認されるなど,いくつかの種でランクの大幅な変更が生じた。生息状況が比較的良くランク外となった種もおり,チョウ類では前回の45種から33種に掲載種が減少した。

ガ類は,前回の80種から92種に増加した。追加したものの多くは,これまで検討されていなかったハマキガ科やツトガ科などの小蛾類で,同定が容易で近年記録が少ない種や分布が限られている種を情報不足として追加した。大蛾類においては,これまで調査が不十分だった地点も多く,今回の調査で新たにみつかった全国的にみても危機的状況にあるヌマベウスキヨトウなどの追加を行った。一方,近年安定して確認されるキイロトゲエダシャクはランク外とした。

ハチ類は,前回掲載の12種から33種に増加した。県内のハチ相は評価できるほど調べられていないため,実際にはより多くの種が今後のモニタリングの対象となると考えられる。ニッポンハナダカバチは県内の分布域が広く,個体数も十分多いことからランクを下げた。同様に,調査してみると複数の産地がみつかり,ランクを下げた種が複数いる。一方で,オキナワキバラハキリバチやフジジガバチなど明らかに分布が局所的,あるいは個体数の減少傾向がある種については今回新たに追加した。

陸生カメムシ類は,新基準に基づいて17種(絶滅危惧II類1種,準絶滅危惧6種,情報不足10種)を掲載した。セミやカメムシのような陸生カメムシ類の一部は愛好家による分布調査が行われているものの,多くの種については情報がほとんどないため,現状を正確に把握できていない。チャイロカメムシは50年以上記録がなかったものの,福岡市近郊で散発的に確認されており,カテゴリーを準絶滅危惧から情報不足に修正した。また,県内に広く分布し,個体数が減少するおそれの少ないハルゼミとエゾハルゼミはランク外とした。

ハエ類は同定が難しい種が多く,愛好者や協力者も少ないため,十分な調査が実施できず記録もほとんどないのが実情である。また,これまでに記録されている種の多くはいわゆる普通種であり,RDBの対象となるような種ではない。前回,絶滅危惧IB類3種,絶滅危惧II類6種,準絶滅危惧6種の15種が選定されたが,その多くは,原記載以来の未記録や少数の採集記録の種であり,その後の生息確認や追加記録などの調査が十分ではないため,今回はすべて情報不足として扱った。

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