福岡県レッドデータブック

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種の解説

ハビタットとその変化

爬虫類の多くは餌動物と密接に関係のある環境に生息している。例えば,両生類を主食としている種の生息環境は,自ずと両生類の生息環境と重なる。今回希少種に選定したヘビ類では,ヒバカリを除いて主に餌とする動物が決まっている。

  • (1) 海岸,海洋

    海岸はアカウミガメが産卵に利用する。岡垣町の海岸はアカウミガメの産卵地としては日本海側の北東限にあたる重要な場所である。産卵には奥行きのあるきれいな砂浜が望ましいが,ゴミや車の乗り入れなど,砂浜の保全には今後多くの課題が残されている。砂利採取に伴う砂浜の後退も問題となっている。また,周辺の海洋も重要な生息環境なので,海洋汚染も回遊数減少の要因となる。

  • (2) 河川,池沼,水田

    いわゆる水辺で,近年もっとも大きく変化した環境である。コンクリートで固められた河岸や水路が増加し,爬虫類の隠れ場所や餌動物が減少して生息に適さなくなった箇所が増えている。また,水量が減ったり一時的に乾燥するなど,不安定になっている箇所もある。

    ここには多くのヘビ類が好んで捕食する両生類(主にカエル類)が生息している。普通種であるヤマカガシ,シマヘビ,やや減少しつつあると思えるニホンマムシ,今回の希少種のリストにあがったヒバカリなどが主な生息地としている。とりわけヤマカガシとシマヘビは同じ水田などでよく重複して生息していることが多いが,この場合,食性の多様なシマヘビが主食を両生類からトカゲ類などに変えて適応していることが多いようである。ニホンマムシやヒバカリもカエル類を好んで捕食するが,ニホンマムシは食性が広いので競合に対応でき,ヒバカリはカエルの他にミミズ類をよく捕食しているため,何とか対応できるのであろう。水田域などでカエル類が減少すれば,いずれヤマカガシも希少種になる可能性がある。

    カメ類では,冬眠を含む生活そのものが水辺と関わっている。ニホンイシガメは主にきれいな流水,ニホンスッポンは砂泥質の河川や池沼という生息環境の違いがあるが,それらの生息環境の減少や悪化に伴う個体数の減少が憂慮される。現在,普通種扱いのクサガメも環境の変化によっては十分に希少種となり得る。淡水域のカメ類にとって,外来種のミシシッピアカミミガメとの競合も衰退の重要な要因と考えられる。

  • (3) 山地

    ここには日中は隠れ場で過ごし,主に夜間に活動する爬虫類が多い。タカチホヘビは主に山地のガレ場などの石の下で見つかっている。このような場所には餌となるミミズ類が多く生息している。タカチホヘビは特に体鱗が他の福岡県産のヘビ類と異なる敷石状の配列なので,鱗と鱗の間に皮膚が露出しているため乾燥に弱く,日中には石の下に隠れており,主に夜間に活動する。ジムグリの場合,以前は平地の耕作地などでも比較的普通にみられたが,宅地開発や樹木の伐採などの影響で著しく減少し,現在はほとんど山地でしかみられない。しかも,餌としてネズミや食虫類などの小型哺乳類のみを食べる狭食性のヘビであるため,これら餌動物の減少も大きく関わってくる。山地の目立った変化としては伐採や林道建設などがあるが,幸い開発の程度はそれほど大規模ではないので,個体数の急激な変動は少ないと考えられる。

  • (4) 人家周辺

    トカゲ類(ニホンヤモリ,ニホントカゲ,ニホンカナヘビ)には目立った増減がみられないため,普通種扱いとした。これらは人家や公園の庭,植え込み,石垣などをうまく利用して生活している。ヘビ類でもアオダイショウには大きな増減がないように思える。人家周辺では準絶滅危惧のシロマダラが見つかることもある(藤田,2011)。シロマダラは夜行性の傾向が強いヘビで,日中は石や倒木,構造物の隙間に潜んで,夜間にトカゲ類や小型のヘビを捕食するために徘徊する。その際,車に轢かれることも多く,シロマダラは路上死体(DOR)としてよく見つかる。シロマダラはタカチホヘビやヒバカリも餌とするから山地でもみられるが,山地での減少はあまり考えられない。本来シロマダラやタカチホヘビは個体数そのものが多くないので,これらの個体数増減を見積もるのは困難である。

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