ハビタットと保全対策
- (1) 生活史タイプ
希少な魚類の保全を考えるうえで,その生活史を考慮することは重要である。絶滅危惧II類以上の61種についてその生活史の特徴を整理すると,一生を淡水域で過ごす純淡水魚類が26(+1)種,生活史の中で海と川を行き来する通し回遊魚類が9(+1)種,汽水・海水魚類が25種となった。なお,ウグイは海と川を行き来している集団と河川淡水域で回遊している集団が存在する(括弧に示した)。
純淡水魚類では,河川の氾濫原や水路(用排水路)が主要な生息場である魚種が多く挙げられている。また,河川と水路の間を移動する魚種もおり,両ハビタット間の連結もその保全を考えるうえで重要である。先述した国内希少野生動植物種および特定第二種に指定される4種のうち,3種がこれらに含まれており,保全の重要性と緊急性が求められる。渓流域に生息する通称アマゴとヤマメはそれぞれサツキマス,サクラマスの河川残留型で,福岡県はともに分布の南限域に近い。冷水性であり,河川水温の上昇は危惧すべき危機要因の一つである。近年,頻発する災害の影響およびその後の河川改修の影響で,渓流域の生息場の劣化が著しく,両種の生息を脅かしている。
通し回遊魚には10種が挙げられたが,うち5種は北方系種として位置づけられる種である。また,これらの魚種は海域と河川の間を移動するため,横断構造物による移動阻害がそれらの絶滅リスクを増加させている。
汽水・海水魚類では,ハゼ科魚類が多く挙げられている点に特徴がある。島嶼部を含む海岸の礫浜に生息する種や干潟に生息する種が多く挙げられており,海岸・河口域が干拓,海岸堤防,道路建設などの人為的な改変にさらされやすいことがこれらの減少要因となっている。また,海岸・河口域よりも低塩分の汽水域を利用する種は河口堰の設置などによる影響を受けやすい。そのほか,気候変動や藻場消失などの影響にさらされている海水魚類がみられる点も特徴といえる。
そのほか,無脊椎動物の生息孔に産卵する種や二枚貝,カイメン・ホヤに産卵する種が多い点にも注目すべきであろう。これらの魚種の減少要因には,ほかの分類群の動物との間の生物間相互作用の欠落が含まれており,その保全には対象魚種に加えて産卵基質を提供する動物の保全も必要となる。
通し回遊魚,汽水・海水魚類の中でその危機の程度から上位にカテゴリーされた魚種のうちいくつかの種は,有明海とその流入河川にのみ生息する種であった。その中でも,国内希少野生動植物種のアリアケヒメシラウオは筑後川の感潮域上端部に主要な生息場を持ち,極めて狭い河川内分布を示している。また,クルメサヨリは博多湾とその流入河川では絶滅し,現在では筑後川を主とした有明海流入河川の汽水域だけに分布している。
- 表 魚類-1 絶滅危惧魚類の生活史型
- (2) 福岡県の河川特性
福岡県内の純淡水魚類相は東部の響灘・周防灘に流入する諸水系と,西部の玄界灘・有明海に流入する諸水系でその成立過程が異なり,生息する種類に違いが認められる(中島ほか,2006)。カゼトゲタナゴ,ミナミメダカ,ドンコなどでは,同種であってもこれらの地域間で遺伝的に大きな違いがあることが知られている。また,福岡県は瀬戸内海,日本海,有明海の3つの異なる海域に面しており,それぞれ特徴的な環境が異なることから生息する主要な魚種についても違いが認められる。これらのことから,県内の魚類保全においては,地域の生物地理学的な特徴をよく理解したうえでの個別の対策が必要となる。筑後川の感潮域にのみ生息する魚種には固有種や大陸系遺存種がみられるため,そのハビタットの保全は国内の生物多様性保全上も極めて重要である。
福岡県内には200以上の独立水系が存在し,河川によりその特性は様々である。例えば,博多湾に流入する河川は脊振山の地質の影響で砂質の河床が広がる傾向にあり,那珂川ではカマツカ,ヤマトシマドジョウといった流水の砂底を好む魚種が中流域に広く分布する。そして,オヤニラミやアリアケギバチのような礫底やツルヨシ帯に依存する魚種の分布域が狭い傾向にある。一方,周防灘に流入する岩岳川や城井川などの河川は下流部まで急勾配で,その河床が礫底である。そのため,カマツカなどの分布範囲は狭いか,あるいは分布せず,ムギツクやオヤニラミが下流部まで分布している。したがって,地質や河床の勾配が河川流水域を好む魚種の分布に影響することから,県内河川の全てを同質ととらえるのではなく,各河川の環境構造の特徴に応じた管理がその保全上,重要となる。
福岡県は平野部に福岡市,北九州市をはじめとする大都市があり,生物多様性保全と治水安全度の向上の両立が大きな課題である。例えば,福岡都市圏の河川では,那珂川は下流域の環境改変が著しい一方,中流から上流にかけての自然度が高い。また,多々良川は下流域の環境改変があまり進んでおらず,セボシタビラやハカタスジシマドジョウが生息している。本来,すべての河川の最大限の種多様性を保全すべきだが,現状の魚類の多様性の特徴を生かすのであれば,那珂川では河川中流域の希少魚を,多々良川では下流域の希少魚を保全目標に据えるなどの工夫で対処することも選択肢の一つである。
- ハビタットに着目した保全策などについては以下に示す。
- (3) 河川上流・中流域
福岡県の河川渓流部に生息する絶滅危惧魚類はヤマメとアマゴである。県西部の河川にはヤマメ,県東部にはアマゴが生息する。両種ともサケ科魚類で冷水性であるため,標高が高い河川上流部の低水温の環境を好む。渓流部のプールに定位して落下昆虫などを食すため,渓畔林を伴ったステップ&プールの構造がその保全上,重要である。砂防ダムなどで移動を阻害され,個体群が分断化される可能性などにも注意を払わなければならない。平成29年7月豪雨後の筑後川支流の渓流部では,河床までコンクリートで固められた河川が見受けられたが,渓流性の魚類の生息は期待できず,大きな課題となっている。また,人為的な気候変動の影響による水温上昇や流量変化は,これらの魚類の生存に大きな悪影響を与える可能性がある。
河川中流域の扇状地区間,河床勾配が1/150前後となる区間には,ミナミスナヤツメ,イシドジョウ,アリアケギバチ,アカザ,カジカ,オヤニラミなどが生息する。適度な河床の攪乱が瀬の石や礫の間隙を好むアカザやカジカの生息に重要である。これらの魚種の生息区間はしばしばダムの湛水区間となり,その建設に伴う生息場喪失などの直接的な影響を受けるが,それに加えて,ダム下流に生息場が残っても,河床材料が均質化するアーマーコート化(高橋ほか,2009)の影響で生息環境が悪化する。近年,いくつかの河川で取り組まれ始めた土砂還元もその生息場を維持する重要なツールとなり得る。これらの魚の多くは瀬の礫下に産卵するため,瀬淵の維持・再生は重要となる。それに加えて,ツルヨシなどの根茎に産卵するオヤニラミにとっては,水際の植生を維持する工夫が必要である。
このほか,通し回遊魚類のいくつかの種類は本来中流域まで遡上していたものと考えられるが,河川横断構造物の影響で遡上が不可能となっている状況がある。特にアユは江戸時代には県内の多くの河川の中流域に多数生息していたことが明らかになっているが,現在では自然に遡上して再生産している河川はごく僅かである(中島,2013)。魚類の遡上に適した最新の知見に基づく魚道の積極的な設置が望まれる。
- (4) 河川下流域・氾濫原域
福岡県内の河川の下流域には,オイカワ,カマツカのように流水域を好む魚種とタナゴ類やスジシマドジョウ類のように止水的な環境を好む魚種が生息する。流水性の魚種にとっては,瀬淵構造がその生息に重要となる。止水性の魚類にとっては,水際や低水敷のワンド,たまり,二次流路などが主要な生息場である。横断構造物を撤去したことで,数種のタナゴ類が姿を消した事例もあり,堤防内に氾濫原の代替的機能を伴う水際を如何に維持・創出するかが,河川下流域の魚類の多様性保全に必要不可欠である。維持管理のための掘削では,河床を平らにするのではなく,水際を保全して澪筋を残し,土砂堆積が進んだ砂州上だけを掘削することとし,小規模出水時に砂州上に水が流れる程度の切り下げが望ましい。そして,その中にワンドやたまりを創出すると,より効果的である。流下能力が不足し,澪筋部も切り下げる必要がある場合は,新たな澪筋を掘ることで,掘削前の生態系に近づけることができる。このような事例は,都市河川の下流域で実際に行われ,効果を挙げていることを付記しておく(鬼倉,2007;中島,2017)。
- (5) 水路網
水田地帯に水を送り,また排水する水路も福岡県産の淡水魚類にとって重要なハビタットである。稲作が行われる以前,水田地帯は河川の氾濫原湿地として機能し,そこに生息した淡水魚類が現在の水路に分布している。その中で,ヒナモロコ,カワバタモロコなどは河川水域にはほとんど出現せず,水路に専住する。また,タナゴ類なども水路に多くみられる。水田地帯の圃場整備と農業の近代化によって,これらの魚類は全国的に著しい改変の影響を受け,コンクリート護岸化(鬼倉ほか,2007)や非灌漑期の水枯れなどの具体的な負の影響が明瞭化しており,その対策が急務である。
有明海側の平野部に多くみられるクリーク網は,県内の数ある水路網の中でも極めて多様な魚類相をみせることを付記しておく。水田地帯に水を送る流水水路と,その水を貯める止水水路が複雑に連結し合うことで,流水的な生息場を好む魚種,止水的な生息場を好む魚種の両方の生息を可能としている(鬼倉,2015)。また,灌漑期と非灌漑期に水位変動があり,灌漑期の水位上昇に伴い,乾いた水路が水没して湿地として機能することで,多くの魚種の産卵場や仔稚魚の生育場を提供する(Onikura et al., 2009)。全国をみても,このような複雑な水路網と多様な魚類相を伴う場所は珍しく,保全する意義は大きい。隣県の佐賀県では,県営水路については従来のコンクリート護岸を使わず,県産間伐材を使った木柵工法で整備を行い,生物多様性への正の効果に加えて炭素貯蔵効果も挙げている(鬼倉・一安,2023)。農業施策と密接に関わる問題ではあるが,隣県施策を参考にこれまでの施策を見直すなど,水路の多面的機能の一つである生物の生息場としての価値を失わないように努力することが必要である。
- (6)河川汽水域
汽水域に定住する底生魚類からみた場合,福岡県内の河川汽水域の重要なハビタットは,「汽水域中上流部の砂礫干潟」,「汽水域中下流部の砂干潟」,「汽水域中下流部の砂泥塩性湿地」,「汽水域下流部の砂泥・泥干潟」の4つに大別できる。汽水域中上流部の砂礫干潟はクボハゼやイドミミズハゼの生息の場であり,シロウオが産卵する場でもある。汽水域中下流部の砂干潟にはチクゼンハゼ,ヒモハゼ,汽水域中下流部の砂泥塩性湿地にはトビハゼ,マサゴハゼ,汽水域下流部の砂泥・泥干潟にはキセルハゼ,エドハゼ,タビラクチ,チワラスボが生息している。それぞれのハビタットが,河川からの土砂供給と水の流れ,海域からの潮汐と波浪のバランスで成立しているため,埋立や浚渫,河口堰の建設などによりハビタットが直接改変される場合だけでなく,上下流での環境変化による間接的な影響により消滅してしまうおそれがあることを十分留意すべきである。
福岡県においては,上記の4タイプのハビタット全てが危機的状況にあるが,その中でもとりわけ「汽水域中上流部の砂礫干潟」は脆弱な環境であるといえるだろう。通常,下流域の河床勾配がある程度急な河川の汽水域は,干潮時の流路が瀬淵構造を成しており,河床材料の大きい瀬(砂州)側はイドミミズハゼの生息場やシロウオの産卵場となり,河床材料の小さい淵側はクボハゼの生息場となる。福岡県における砂礫干潟の環境悪化は,「表在する礫がなくなり砂質化している」場合,「大きい礫しか存在しない」場合の2つのタイプに分けられる。前者は,響灘西部や玄界灘で多くみられる事例である。理由として,これらの海域に流入する河川は,地質の影響で砂質の河床が優占するため,河川改修により河道が単調化した場合,単調な砂質干潟になりやすいためと予想される(例えば,伊豫岡,2021)。おそらく,博多湾におけるクボハゼの絶滅,シロウオの減少の要因の一つであろう。後者は,響灘東部や周防灘で多くみられる事例である。イドミミズハゼが生息するような粒径の大きい河床材料は表在しているのに対し,クボハゼが生息するような小さい粒径の砂礫は少ない。冒頭部に記したように,響灘東部や周防灘に流入する河川は下流部まで急勾配で,礫質の河床が優占する場合が多い。そのため,河川改修により河道が単調化した場合,単調な粗い礫干潟になりやすいと予想される。このように,人為的環境改変による汽水性魚類の生息環境の単調化の方向性は,流域の特性に応じてある程度予測できるため,汽水域の保全・再生を行う際は,河川ごとの流域特性と現存のハビタットの状態を踏まえた対策を行うべきである。河川汽水域におけるハビタットの形成・維持プロセスは未解明な部分が多く,今後の研究の進展が望まれるところではあるが,現状で考えられる環境の単調化の原因として,河口域の水際形状の単調化と狭小化,低水路を掘り下げることによる流路の固定・直線化,土砂供給量の減少による河床低下が挙げられる。これらの解消が,河川汽水域に生息する魚類の生息場の保全・再生にとって重要であると言えるだろう。
平成23年,遠賀川では河口堰に設置される既存の魚道に加えて,遊泳力の乏しい小型魚の遡上を可能とする緩勾配の多自然魚道が設置された。この魚道は長さが200m以上あり,水際と底部は砂礫で構成されるため,単なる小型魚の移動だけでなく,汽水魚の一部にその生息場と産卵場を創出している(小山ほか,2018)。汽水域の絶滅危惧魚類の危機要因が抜本的に解決されるわけではないが,魚道の中に汽水魚の生息場としての機能を持たせるような新しい視点での保全努力の積み重ねが将来的なそれらの危機回避の一助となるかもしれない。
- (7)有明海と筑後川感潮域
有明海とその流入河川の感潮域には固有種や大陸系遺存種が多く認められ,日本の生物多様性保全上,重要なエリアの一つである。そして,その多くは,有明海の大きな潮汐と河川水によって形成される汽水域水塊の動態に呼応するような生活史を伴っている(日本魚類学会自然保護委員会,2009)。例えば,産卵期に有明海から筑後川に遡上して産卵するエツの場合,産卵場所は淡水域,その後の卵の孵化条件は汽水域の低塩分環境である。また,筑後川の感潮域上端の水塊を主要な生息場とするアリアケヒメシラウオは,大潮の満潮時でも塩分が0.3を下回り,河床材料が砂質の場所で産卵を行う。この魚の産卵環境は支川の広川に残される一方,筑後川本川ではいわゆるガタ土の堆積が進み,産卵できる環境が大幅に減少している。筑後大堰建設以降,感潮区間が減少したこと,河床掘削と砂利採取に伴う河道の二極化,土砂を流すための掃流力の低下など(河川環境管理財団,2008),筑後川の汽水域水塊の動態を変化させた可能性のある人為的な要因は様々であるが,少なくとも筑後川本川だけではなく,その汽水域に流入する支川を含めた総合的な保全対策が必要である。
一方,有明海で最も有名なムツゴロウはガタ土と高塩分を好むため,近年,選好する環境が広がっており,前浜だけでなく,筑後川の河道内にも広がっている(竹垣ほか,2005)。この分布の広がりは,筑後川の汽水域が有明海の海域に類似した環境へと変化していることを意味しており,先に述べたアリアケヒメシラウオなどの分布の狭小化と背反関係にあると推察される。ムツゴロウは有明海の前浜に生息し,筑後川の汽水域内には多様な塩分濃度と様々な河床材料が存在し,アリアケヒメシラウオなどのほかの魚類の生息環境が存在することが,この水域の健全な自然環境であると考えられる。
そのほか,大陸系遺存種であるヤマノカミ,有明海を含め県内の閉鎖系水域に出現するショウキハゼなどは産卵基質にタイラギやカキなどの二枚貝の空殻を利用する(日本魚類学会自然保護委員会,2009)。近年の有明海の改変に伴い,タイラギを始めとする二枚貝類の斃死やそれらの資源量の急減が起こっており,産卵基質を二枚貝類に依存する希少種は注視しておく必要があろう。
- (8)その他
周防灘に広がる砂質の前浜干潟は,魚類の種多様性は決して高くなく,一見,見落とされそうなハビタットではあるが,アオギスの最大規模の生息地であり,また,シロチチブ,シラヌイハゼなどの重要な生息地でもあるため,埋立てや航路浚渫による砂質の前浜干潟の減少や分断化には今後も注視する必要がある。また,九州を分布南限とするサケ,ニホンイトヨ,クダヤガラ,一部の海産カジカ類は,気候変動に伴う海水温上昇や対馬海流の流路変化に伴い,その生息に大きな悪影響を受けていると思われる。このような環境変化は例えばふ化率の低下などの生理的影響のほか,藻類やホヤ類といった産卵基質の減少,藻類減少に伴う仔魚期の生活圏の物理環境の変化(いわゆる海のゆりかごとしての機能の低下)も引き起こす。一般的に海水温上昇は磯焼けを引き起こす原因とされ,福岡県内においても特に玄界灘西部で磯焼けが進行しつつある。磯焼けは九州西部に向かうほど深刻であり,今後は玄界灘全体で顕在化する可能性があるので注視が必要であろう。
県内の海岸線のうち,日本海側の玄界灘と響灘では大型の弧状砂浜と博多湾や洞海湾周辺のような港湾埋立地が多くを占めており,岩礁性海岸が少ないという特徴がある。その中で礫浜の発達する場所はさらに限定されている。このような環境は海岸部の堤防整備や道路建設によって失われやすく(是枝ほか,2023),特に陸域からの礫の供給が絶たれることは礫浜そのものの消失に直結する。ミミズハゼ属魚類のような礫間隙と陸域からの淡水供給を含む間隙水に依存した生活史をもつ種については,礫や淡水の供給を含めた陸域から海域にかけての連続性や適度な波浪によって間隙が維持されることが重要である。したがって,今後の海岸部の道路拡幅や堤防改修,離岸堤の建設に伴う海岸線の波浪の変化が致命的な影響を引き起こす可能性について留意すべきである。福岡県では平成28年に玄界灘沿岸海岸保全基本計画が策定され,礫浜海岸については浸食や越波対策としての護岸整備が実施されてきたが,このような整備事業が礫浜の魚類に与える影響を考慮すべきである。
- (9)外来魚問題
現在,福岡県には数種の外国産の魚類が定着している。これらの国外外来魚のうち,3種については環境省の外来生物法下で特定外来生物に指定され,移動や飼育が制限されている。そのうち,オオクチバスやブルーギルは在来魚類に対する食害が,カダヤシについてはミナミメダカとの競争が懸念されており,有明海沿岸域のクリーク地帯では,カダヤシが定着したエリアでミナミメダカが出現しない傾向が確認されている(鬼倉ほか,2008)。また,タイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴの交雑の問題がかなり深刻化しており,15年前(三宅ほか,2008;Onikura et al., 2013)と比べて雑種個体の分布拡大傾向が認められている。特に,これまであまり調べられてこなかった核DNAレベルでの研究(Umemura et al., 2020)によって,さらなる遺伝的攪乱の実態が解明されつつある。環境調査で採集されたバラタナゴ類は確実に遺伝子分析を行い,純系か雑種かを確認するとともに,主にフナ類の放流種苗へのタイリクバラタナゴの混入防止や観賞魚の遺棄の禁止など,その分布拡散を予防するための施策を早急に打つべきである。
水産種苗の放流,そしてその種苗に交じり,意図的・非意図的に生息地外に定着したいくつかの魚種は,近年,国内外来魚として注目されている。福岡県下でもハスやワタカを始めとする数種の国内外来魚の定着が確認されている(日本魚類学会自然保護委員会,2013)。筑後川にはギギが,遠賀川にはビワヒガイが既に定着しているが,実はそれぞれの河川に在来近縁種のアリアケギバチ,カワヒガイが生息しており,競争や交雑などの問題が生じている。また,タモロコについては上記のような混入のほか,養殖魚が天然水域に逸脱した可能性が疑われる。加えて,コイ(中島,2013;Mabuchi et al., 2008),オイカワ(Kitanishi et al., 2016),モツゴ(鬼倉・向井,2012),ゼゼラ(堀川ほか,2007),ツチフキ(Jang-Liaw et al., 2019)については,人為的に放流された国内外の外来集団との交雑が進行している可能性が高いことも明らかとなってきた。こうした遺伝的攪乱は,生物多様性保全の観点からは極めて問題である。水産種苗への混入防止や養殖魚の逸脱防止あるいは釣りや鑑賞用目的での私的な放流の禁止などを徹底しなければ,数種の在来純淡水魚類の絶滅リスクは軽減できないだろう。