概要
「クモ形類等」は前回の福岡県RDB2014において新たに選定対象として加えられ,今回が2回目の改訂となる。本リストの対象種は昆虫類・貝類以外の陸生無脊椎動物である。したがって,分類群としてはクモ綱のクモ目,ザトウムシ目を中心に,ダニ類,ムカデ網のゲジ類,ムカデ類,ヤスデ類,甲殻綱の陸生のワラジムシ類,環形動物門のミミズ類,ヒル類などの陸生種が主要なものとなる。また,こうした区分をしていることから,クモ綱のうちカブトガニや多くの甲殻綱,環形動物門などの水生種は「魚類・甲殻類等分科会」で扱っている。今回の改訂作業においては,県内に有識者が不在であることから分科会としての作業を行わずに事務局対応とし,前回リストとその後の文献調査に基づいてリスト原案を作成後,適宜県外の有識者からヒアリングを行う方法で掲載種とランクの決定を行った。ランクの決定には,得られた情報に基づいて後述する選定基準に従った。以下,各分類群について現状を記す。
クモ目は主に節足動物を食べる捕食者として,陸上生態系において重要な役割を果たしている。近年の研究では地球上で年間にクモ類が捕食する生物量は4億~8億トンとの試算もあり(Nyffeler & Birkhofer,2017),農業害虫などの大発生を抑制するなどいわゆる生物多様性の調整サービスの一環として,我々の社会にも大きく貢献している分類群と言える。クモ目はこれまでに国内から約1,700種が記録されており(谷川,2023),福岡県内では2023年時点で約430種が記録されている(馬場友希博士,私信)。クモ目の分布がよく把握されている他県において500種を超える地域もあることや,本県における他のよく調査された生物分類群の種数の多さから考えると,本県においてはさらなる調査が必要な段階であると言える。クモ目は県内ではあらゆる環境にみられるが,このうち里地里山などの二次的自然環境に生息する種(ヒゴキムラグモ,キシノウエトタテグモ)や高標高地に生息する種(ダイセンヤチグモ)については,その環境の悪化によって減少傾向にあることは明らかであり,そのうちある程度の生息情報があるものについて今回評価を行うことができた。しかし,県内では特に湿地環境の悪化が顕著であり,そうした環境を利用するコガネグモ類やコモリグモ類の中には減少している種もいると考えられるものの,調査は不十分であり今回は評価ができなかった。今後の知見の蓄積が望まれる。一方,前回リストで情報不足として挙げたドウシグモについては,未発表ながら県内では市街地においても採集されていること(鈴木佑弥博士,私信),本種に特定した調査では発見が容易であること(小松,2020),実際にそうした方法で福岡市・立花山での多数の発見例があること(Komatsu,2016)から,少なくとも県内での絶滅のおそれはないと判断し,今回リストから除外した。
ザトウムシ目についてはこれまでに国内から約80種,県内から約20種が知られている(井原ほか,2014)。県内ではあらゆる環境にみられるが,このうち里地里山などの二次的自然環境に生息する種(ゴホントゲザトウムシ)や高標高地に生息する種(ヒコスベザトウムシ,ヒライワスベザトウムシ,ヒメタテヅメザトウムシ),海岸に生息する種(ヒトハリザトウムシ)については,その環境の悪化によって減少傾向にあることは明らかであり,そのうちある程度の生息情報があるものについて今回評価を行うことができた。ザトウムシ目は一般的に移動能力が低く地域的な遺伝的分化が生じやすいこと,局地的な分布を示す種が多く存在することが知られていることから,保全対象種としては明らかに過小評価されている。さらなる知見の蓄積が望まれる。
クモ目とザトウムシ目以外の分類群については県内産種のリストも整備されていない状況であり,候補種の選定も困難であった。特にムカデ類,ヤスデ類,ワラジムシ類などで二次的自然環境や高標高地,海岸域に生息する種の状況は悪化している可能性が高いと思われる。例えばイソフサヤスデは,その生息環境の特性から希少である可能性があり検討を行ったものの,判断する材料に乏しく,今回はリストに含めなかった。県内における「クモ形類等」に関する情報は全体的に少なく,調査者・研究者が明らかに不足している。今後の課題である。