概要
「クモ形類等」は,今回,新たに選定の対象に加えられた。クモ形類のうち,福岡県内に生息,あるいはその可能性があるクモ類とザトウムシ類を検討対象種とし,1次リストを作成した。クモ類の1次リストは,福岡県で文献記録のある種に,聞き取りと資料調査および個人標本によって得られた情報を加えてリストアップした。また,ザトウムシ類は専門家への聞き取りによって1次リストを整備した。次に,現地調査によって生息情報を収集し,最近の生息状況の変化を推測して定性的に対象種を評価した。さらに,分科会会議での検討を経て,カテゴリーを決定した。
クモ類は,主に昆虫類を捕食する中間捕食者として,陸上生態系において重要な役割を占めている。日本からは64科約1500種が知られており(小野,2009),そのうち福岡県から報告のあるクモ類は42科328種である(馬場ほか,2009)。クモ類相がよく調べられた県では,確認種が500種を大きく超えることから,福岡県におけるクモ類相の解明度は高くないといえる。また,県内の体系的な調査は少なく,断片的な生息情報がある種がほとんどで,一部の種を除いて分布状況さえ明らかになっていないのが現状である。
ザトウムシ類は,山地の森林に生息する種が多く,日本から約80種,福岡県から20種余りが知られている。生息種の解明度は高いが,詳細な分布状況はよくわかっていない種が多く,増減傾向などの情報は非常に少ない。ザトウムシ類は移動性が乏しいため,地理的な分化が生じやすく,分布域が限られた種が多い。
福岡県RDB2014では,クモ類7種,ザトウムシ類5種を掲載した。絶滅危惧II類としてヒゴキムラグモの1種,準絶滅危惧にはキシノウエトタテグモ,ダイセンヤチグモ,ヒトハリザトウムシ,ヒコスベザトウムシ,ヒライワスベザトウムシの5種,情報不足には6種を選定した。キムラグモ類は原始的な形態を残したクモで九州以南にみられるが,ヒゴキムラグモはその北限に分布する種である。福岡県では南部の八女市などに限って分布しており,生息地が局地的で今後の動向に注意する必要がある。ヒトハリザトウムシは海浜性の種で,生息情報は少ないものの,生息に適した自然海岸などが減少していると考えられるため準絶滅危惧とした。同様に海浜性のクモ類であるイソタナグモ(情報不足)の生息地は比較的多いが,近縁な外来種の侵入が確認されている。ダイセンヤチグモ,ヒコスベザトウムシ,ヒライワスベザトウムシ,ヒメタテヅメザトウムシ(情報不足)の4種は英彦山の森林が主要な生息地であるが,ニホンジカによる森林環境への影響が懸念される。また,情報不足として,福岡県では生息情報の少ない環境省レッドリスト種の3種を掲載した。その他の重要種としては,英彦山からアカオニグモの古い記録があった。アカオニグモは北方系の種で,西日本では山地の草原に生息する。大型の円網種でよく目立つコガネグモは,減少傾向が知られていることから,各地でレッドリスト種やそれに準じた種として扱われることが多い。県内においても減少傾向は予想されるが,判断するだけの情報がなかったため保留した。クモ類の中では一般にもよく知られた種であり,良好な二次的自然の指標として今後の動向を把握するための情報収集のしくみなども課題となる。
クモ類・ザトウムシ類以外の陸生の節足動物としては,クモ形類ではカニムシ類やダニ類,その他では多足類や等脚類(ワラジムシ類)などが挙げられる。しかし,生息情報が少ないこと,同定が困難な種が多いこと,小型であること(ダニ類)などから,それらの分類群の取り扱いは今後の課題とした。