ハビタット
- (1) 山地
県内で最も山地の鳥類相が豊かな英彦山地では,標高700m以上にブナやミズナラなどが優占する落葉広葉樹林が多く,県内のほかの山地では生息していないコノハズクが生息している。2000年以前にはコマドリも繁殖していたが,台風による風倒木被害とニホンジカによる下層植生の食害により生息環境が消失した。ヨタカ,オオコノハズク,オオアカゲラ,ジュウイチ,ゴジュウカラなど,ほかの山地では少なくなった種が比較的多くみられる。脊振山地では現在のところニホンジカによる食害がみられず,県内の山地ではほぼ唯一ニホンジカ増加以前の下層植生が保たれている。脊振山と金山にはブナ林があり,コルリの生息が確認されていたが,2015年を最後に確認ができない状況である。また,脊振山地は県内の山地で最もヤイロチョウの生息密度が高いと考えられる。釈迦岳山地および筑肥山地では,標高800m以上にブナやシデ類などの落葉広葉樹林がみられ,オオアカゲラ,ゴジュウカラ,コガラが比較的普通に生息しているほか,ヨタカ,オオコノハズク,ヤイロチョウの生息も確認されている。冬季には下層のスズタケ群落で少数のカヤクグリが越冬している。また,県内で唯一ブッポウソウの営巣が確認されている地域でもある。一方で,県内のほかの山地に比べると植林率が高く,山地の中腹以下の鳥類相がやや貧弱となっている。三郡山地,古処山地ではオオアカゲラ,ゴジュウカラが生息しているものの,分布は縮小傾向である。福智山地ではセンダイムシクイの生息密度がほかの山地に比べて高いが,高標高帯に高木が少ないためか,標高の割に生息する種は少ない傾向がみられる。県内の山地での共通の危機要因としては,ニホンジカ,イノシシ増加に伴う環境改変と付随する様々な影響,温暖化や里山荒廃に伴う急速な遷移進行(落葉樹林やマツ林の衰退),台風や豪雨に伴う土石流や風倒木による被害,林道開発などが挙げられる。
- (2) 低山・丘陵地
標高300m以下の低山や丘陵地では,地域による鳥類相の変化は山地に比べると比較的少ないものの,生息密度や増減傾向については地域差がみられる。ミゾゴイ,サシバ,ツミ,アオバズクについては山地にも生息するが,低地にも広く分布している。またサンコウチョウは丘陵地や山裾の低標高地に生息する傾向がある。ミゾゴイ,サンコウチョウは筑後地方に少ない傾向があり,サシバは福岡地方や北九州地方の市街地に近い地域から減少している。アオバズクは筑豊地方や北九州地方の京築地域でやや少ない傾向がみられる。かつて夏には九州に生息していなかったオオタカが丘陵地を中心に分布を拡大しており,クマタカの山麓部への分布拡大も進んでいることから,これら生態系上位種の競合によりサシバが減少している可能性もある。また,フクロウも増加傾向にあり,アオバズクの減少要因の一つとなっている可能性がある。福岡地方については全国的にみても人口の増加が続いている地域であり,住宅需要の増加から今も郊外での宅地造成が行われている。また、県内各地の地形のなだらかな丘陵地では大規模な太陽光発電施設が建設されており,地形を大規模に改変する事例もみられている。
- (3) 草原・草地環境
県内ではまとまった草原環境は少ないため,草原環境に特有な鳥類相はあまりない。平尾台がほぼ唯一のまとまった草原環境であり,かつてホオアカは平尾台のみで繁殖していたが,ここを起点に分布が拡大したと考えられ,北九州地方の京築地域の農耕地や遠賀川水系の河川敷では普通にみられるようになっている。筑後川水系の河川敷や福岡地方の北東部でも繁殖期に確認例が増えており,県内全域で繁殖するようになりつつある。平尾台ではヨタカの生息が確認されているが,確認頻度は少なくなっている。また,春から夏にかけてノスリが確認されており,繁殖の可能性が指摘されている。
- (4) 農耕地・干拓地
本県は筑後川,遠賀川および博多湾や周防灘への流入河川沿いに平野が発達しており,国内有数の農業県という側面もある。これらの農地は鳥類の生息適地となっており,タマシギ,ヒクイナなどの繁殖地,チョウゲンボウなどの猛禽類やホオジロ類などの越冬地,淡水湿地性や草地性のシギ・チドリ類をはじめとした多くの鳥類の渡りの中継地および採餌場として利用されている。
- (5) 河川
一級河川の筑後川,矢部川,遠賀川は,河川の規模が大きいため,河川を生息場所とする多くの種が生息している。冬季には下流から中流にかけての水域で数千羽の規模の陸ガモ類がみられる。中・下流域のヨシ原ではオオヨシキリ,中流域の中州ではイカルチドリが繁殖し,河川敷に広い草地や農耕地,樹林がみられる場所では,ハイイロチュウヒやオオタカなどの猛禽類,コミミズク,トラフズクなどのフクロウ類が越冬している場所もある。水系ごとに特徴があり,筑後川ではツバメチドリやコアジサシが小規模なコロニーを形成することもあったが,現在はほとんどみられなくなっている。矢部川やその支流ではササゴイが多く,堰や瀬などで採餌を行っている。上流域にはヤマセミやカワガラスが生息しており,多くみられる。また,上流域の川岸が樹林に覆われた場所で越冬期にオシドリが多くみられる。遠賀川水系では,県内の他地域では比較的稀なカワアイサの小群が越冬している。
洪水が発生した際には生息環境全域が消失する場合もあり,特にカワガラスやヤマセミなど河道内を主な生息環境とする種にとっては,災害復旧工事の長期化も併せて影響が大きいと考えられる。
- (6) ため池・湿地
県内には自然由来の湿原が少なく,県内でみられる湿地環境はため池,遊水地,水田由来の休耕湿地,ビオトープなどである。特にため池は県内に4,500以上存在し,多くの水鳥の生息場所となっている。抽水植物が水辺に繁茂している場所ではカイツブリ,バン,ヒクイナなどが繁殖し,サギ類の餌場となっている。これらの種は環境さえ整っていれば,小面積や住宅隣接地などであっても生息できるため、単純にため池の多さが個体数維持に繋がっている。冬季にはカモ類がため池を利用し,特にトモエガモ,ハシビロガモ,ミコアイサはため池への依存度が高く,山地に接するため池にはオシドリが多い。ヨシやガマ,マコモなどの抽水植物が繁茂している湿地環境は,クイナ,オオヨシキリなどの繁殖地や越冬地となっているほか,ヨシゴイやサンカノゴイなど特に希少な種の生息地となっている場合もある。筑後地方のため池群や直方市周辺,宗像市周辺,京築地域のため池群などでは再導入個体群のコウノトリが安定的に飛来するようになっており,筑後地方では繁殖に向けての動きもみられている。
- (7) 埋立地
埋立地は人為的な環境であるが,埋立て過程で湿地環境や裸地,荒地などが形成され,一時的に湿地環境や氾濫原環境を好む種が集まる。これまで響灘沿岸,周防灘苅田地区,博多湾,有明海三池港周辺などでこのような環境がみられ,現在,博多湾や三池港周辺ではみられないものの,響灘や苅田地区では浚渫土砂の処理もあり,多くの湿地環境が存在している。裸地となった場所では氾濫原を営巣環境とするコアジサシやコチドリ,シロチドリなどが,ヨシの繁茂した場所ではオオヨシキリ,ヒクイナ,オオバンなどが繁殖している。響灘埋立地や北九州空港人工島にはチュウヒが営巣,周年生息しており,多くの希少種の繁殖場所となっている。また,冬季にはツクシガモ,クロツラヘラサギ,ハマシギなどの採餌場所や休息地として利用され,渡り時期にはシギ・チドリなどの中継地として利用されている。特に渡り時期のトウネンをはじめとしたシギ・チドリ類にとっては重要な中継地であり,海岸や干潟ではみられないような大きな群れが飛来することがある。
- (8) 河口・干潟
干潟が形成される河口や海岸は多くの水鳥が越冬や渡りの中継地として利用する。県内には国内有数の飛来地も多く,希少種の重要な生息地となっている。北九州市曽根干潟はズグロカモメ,ダイシャクシギの飛来が有明海に次いで多く,ツクシガモ,シロチドリ,ダイゼン,ハマシギ,ユリカモメ,カモメなども多数越冬し,クロツラヘラサギの越冬数も年々増加している。また,渡り時期のシギ・チドリ類の数も県内有数規模で,特に100羽以上のオオソリハシシギの飛来がみられる。今川河口や佐井川河口,京築地域の海岸の干潟でもシギ・チドリ類やカモメ類の大きな群れがみられる。博多湾では和白海岸でミヤコドリが越冬しており,西日本では唯一の安定した越冬地になっている。ハマシギ,ミユビシギ,シロチドリも群れで越冬しているが,特にハマシギの飛来数は減少傾向が続いており,最盛期の1/5ほどとなっている。瑞梅寺川河口は背後の農地やため池などと併せ,多くの鳥類の越冬地,中継地として利用されている。クロツラヘラサギが国内で安定越冬する最初の場所となったが,近年の越冬数は減少傾向にある。原因としては,以前ねぐらとして利用されていた中州が浸食により消失したこと,後背地の市街地化・宅地化が進んでいることなどが上げられる。筑後川河口から三池港にかけての有明海の干潟は,1990年代以降水鳥類が少なかった時期もあるが,現在は回復傾向にある。近年はクロツラヘラサギやツクシガモが増加し,越冬期には筑後川河口にハマシギの大きな群れもみられる。春の渡り時期にはハマシギ,トウネン,オオソリハシシギ,ソリハシシギ,キアシシギなどが多数みられることもある。
- (9) 海岸・砂浜
玄界灘,響灘および周防灘の一部の海岸には砂浜や岩礁の海岸が発達しており,水鳥類が生息している。干潟同様,越冬期や渡り時期にはシギ・チドリ類が海岸を利用し,砂浜ではシロチドリが繁殖している場所もある。海の中道の玄界灘側や博多湾の西戸崎では年によりコアジサシのコロニーが形成され,繁殖することがある。岩礁海岸ではクロサギが繁殖しているほか,ミサゴの営巣もみられる。
- (10) 海域
本県は玄界灘,響灘,周防灘および有明海奥部に面しており,それぞれの海域に多くの水鳥や海鳥が生息する。玄界灘および響灘は島嶼で繁殖するカンムリウミスズメ,ヒメクロウミツバメ,オオミズナギドリの採餌場所となっており,特に生息数の多いオオミズナギドリは全域に広く生息している。沖合については十分な調査が行われていないが,日本海を通過する海鳥は一定数存在すると考えられ,アカエリヒレアシシギが多くみられるほか,アジサシ,ハシボソミズナギドリなども観察されることがある。玄界灘および響灘の沿岸域は全国有数規模の沿岸性海鳥の越冬海域となっており,シノリガモ,クロガモ,オオハム類,アカエリカイツブリ,ウミスズメなどの越冬海域の南限となっている。また,カモメ類の採餌場所となっており,沖合で採餌し,防波堤や海岸,河口などで休息する姿がみられる。2000年以降は秋から冬にかけてカツオドリが飛来するようになり,島嶼の崖などをねぐらとしている。これまで,周防灘沿岸は玄界灘と同様の種が生息するものの,群れの規模が小さいと考えられていたが,船を利用した近年の調査により,オオハム,ウミアイサなどは一定の密度で広範囲に生息しているのが確認された。これらの種は岸から確認できる個体数以上に多く生息している可能性がある。有明海では三池島にベニアジサシが繁殖期に多数飛来し,周辺の海域で採餌し,冬季にはノリ養殖場の沖合でスズガモ,ホシハジロなどの海ガモ類が大群で生息するほか,ウミアイサも多い。
- (11) 島嶼
玄界灘および響灘には大小さまざまな島嶼が散在し,希少な鳥類の生息場所となっている。多くの島でカラスバト,ミサゴ,ハヤブサ,クロサギが繁殖しており,一部の島ではアマツバメも繁殖している。最も沖合に位置する沖ノ島では,属島の小屋島でカンムリウミスズメ,ヒメクロウミツバメが繁殖し,沖ノ島では約15万羽(福岡県森林林業技術センター,2000)のオオミズナギドリが繁殖しているほか,ウチヤマセンニュウの繁殖数も国内最大規模と考えられる。また,リュウキュウコノハズクが本来の分布域である南西諸島から大きく離れて分布しており,特異な鳥類相がみられる。糸島沖の岩礁島である烏帽子島ではカンムリウミスズメが繁殖している。響灘の白島では小規模ながらオオミズナギドリが繁殖しており,繁殖期における海域での確認状況から属島でのカンムリウミスズメの繁殖の可能性も濃厚である。玄界島周辺の大机・小机島,柱島,志賀島属島沖津島ではウチヤマセンニュウが繁殖している。