種子散布の多様性
春にタンポポの綿毛が飛んでいくのを見たり、秋にズボンや靴に種子がびっしりと付いていたりしたことってありませんか? このように、種子が母体から離れた場所に移動することを種子散布と言います。種子散布は、動くことができない植物にとって、いかに子孫を残せるかを左右するとても重要なものです。そのため、種子の形を多様に変化させ、あの手この手で種子散布を実現させています。
今回は、その種子散布の多様性の一部を紹介します。
種子散布の方法
種子散布は、種子自体が動くわけではないので、様々な力を利用して行われます。この利用する力の種類によって、種子散布は、風散布、動物散布、水散布、自力散布、重力散布の5つに大別されます。
1)風散布
風の力を利用して種子を飛ばします。風の力で種子を飛ばすため、多くの種子は軽く小さい特徴があります。
①綿毛で飛ぶ
種子は小さく、ふわふわと風に乗って移動します。国内では、草本に多く、木本はヤナギの仲間などわずかしかありません。
②翼で飛ぶ
綿毛で飛ぶ種類と比べると種子が大きく、木本に多いのが特徴です。グライダーのように滑空したり、プロペラのようにくるくる回ったりして、滞空時間を延ばしなら飛びます。
③微小種子で飛ぶ
多くは特別な形質は持ちませんが、種子が特に小さいため、容易に風で飛ぶことができます。特にランの仲間は、微細で埃のような種子を作ります。
④その他の方法で飛ぶ
葉のついた枝や鞘で風を受けて飛びます。
2)動物散布
動物散布には、触れた動物に付着する方法と食物としての報酬(果実など)を与えることで種子散布を託す方法があります。
①付着散布
動物に報酬を与えずに、かぎ状の形質や粘液で付着することで、動物を一方的に利用し種子散布します。
②被食散布
果実などを報酬として動物に食べられた後、動物の移動先で糞と一緒に種子が排出されることで種子が散布されます。
③貯食散布
冬季の餌を確保するために秋に種子を移動させて隠して貯蔵する習性(貯食行動;ネズミ類、リス類、カケス、シジュウカラなど)を利用した散布方法です。貯食された種子の一部は、食べ残されたり、食べ忘れられたりすることで生き残ります。
④アリ散布
種子にエライオソームというアリの好む物質をつけることで、アリの巣の中やその近くに運んでもらう方法です。移動距離は短く、数メートル程度と言われています。
3)水散布
雨が当たった衝撃による飛散、川や湖沼などの水の流れ、海流などにより種子が運ばれる方法です。
①雨滴散布
雨滴が当たった衝撃で種子が周囲に飛び散ることで種子を散布します。
②水流散布
果実や種子が浮く構造を持っている、または比重が水と近く水中を流れることで種子が運ばれます。
4)自力散布
他の散布方法とは異なり、植物自らの力を使った種子散布方法です。乾燥による収縮率の違いや細胞の膨圧などの力によって、果実などが裂けて瞬間的に弾けることで種子を飛ばします。
5)重力散布
種子や果実に特別な特徴がなく、親の周囲に自然落下させる方法です。落下した種子の一部は、二次的に動物に運ばれたり、水によって移動したりします(二次散布)。
代表種:コナラ、アラカシなどのブナ科樹木、トチノキ、オニグルミなど
種子散布の巧妙さを遊びながら体験してみよう
「ひっつき虫」と呼ばれることが多い付着散布種子は、服にくっつけて絵を描いたり、ダーツとして的に投げたりして遊ぶことができます。風散布種子も、綿毛を吹いて飛ばしてみたり、翼を持つ種子を高いところから落として、くるくる回る様子を観察したりすることができます。
このように、種子散布の仕組みを利用した遊びはたくさんありますので、楽しみながら植物の巧妙な仕組みを観察してみてください。実際に体験することで、そのすごさに驚かされるはずです!
参考文献
福原 達人『植物形態学』
https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/index.html(2022/02/01アクセス確認)
菊沢 喜八郎(1995)植物の繁殖生態学.蒼樹書房,東京
小林 正明(2007)花からたねへ 種子散布を科学する.全国農村教育協会,東京